記憶-10
「兄上……そのような行動を取る国王に、私はお仕えできません……」
そう言って踵を返し、部屋から出る。
「!キアルリア!」
慌ててラインハルト兄様が追いかけてくる気配がしたが、隠し通路に入ってそのままその場を立ち去った。
しばらく城内の捜索が続き、それは夜遅くなっても続いていた。
(見つかるかっつうの)
城内などいくらでも隠れ場所はある。
今は城の屋根の上から慌てふためく2人の兄を見ていた。
テキパキと指示を出すラインハルト兄様の頬は赤く腫れていた。
(また、殴ったのか……)
犯人はギルフォード兄様だろうな……思わずくすりと笑ってしまう。
暗いと効率も悪いと気づいたらしく、捜索は打ち切られて明日にもちこされた。
捜索の目を盗み、あちこちで旅に必要な物も準備したし、そろそろ行動開始。
隠れていた所からそっと出て、足音がしないように走る。
コソコソと隠れながら移動していると、ギルフォード兄様の部屋の窓辺にきてしまった。
(寝たかな……)
そっと覗こうとしたのがまずかった。
がちゃ
「あ」
窓を開けたギルフォード兄様とバッチリ目が合う。
「っキ!!んぐっ」
叫びそうになった兄の口を両手で塞いで、部屋に押し込んだ。
しばらく、様子をうかがってみたが動きがないようだった のでホッとため息をついて両手を離す。
「夜分遅くにすみません。お顔を見てから行こうと思いまして……」
実はまったくの偶然だったのだが、適当な事を言ってごまかす。
「……行くのか?」
「はい。お世話になりました」
「どうしてもか?」
そんなに悲しそうな顔をしないでほしい。
「ラインハルト兄様は少し1人で考えすぎだと思いますので、もう少し周りを頼るようにとお伝え下さい」
兄の問いに答えずに話をそらす。
「後、ミヤにお礼を言っておいて下さいね」
「キアルリア」
強めに名前を呼ばれてしまい、黙るしかなくなった。
「1人で大丈夫か?」
兄はため息をついて諦めたように聞く。
どうやら止める気はないようだ。
「はい。ギルフォード兄様もお元気で。次会うときは彼女の1人ぐらい紹介して下さい」
冗談を言うと兄は笑って頭を撫でようとして……止まる。