月の光-9
「仲いい娘、ダメなんだよね…」
「まあ、今日の来週じゃぁな。」
駄目もとで聞いてみる。
「大輔くん行く?東京と横浜。」
大輔くんの動きが止まる。
ちょっと緊張してしまう。
少し間が空いて、返ってきた。
「俺は空いてるけど、誕生日にまた飲むのか?」
「飲むんじゃない!旅行にいくの!11月も半ばだから、イルミネーションも綺麗だよ!暇なら行かない?宿代かからないよ!夜は飲んでもいいから。」
「はいはい、考えとく。一応他に当たっとけよ。」
つい、顔が緩んでしまう。
大輔くんはダメな時はダメっていう人。
だから、嬉しい。
行けることが。
片付けてから、駐輪場に向かう。
快晴。
そのまま自転車の後ろに乗って駅に向かう。
駅に着くと、大輔くんが言った。
「明日から水曜日まで出張。大阪。土産なんか買ってきてやるよ。」
「京都の八ツ橋がいい!」
「大阪っていっただろ?」
「近くだから空港行けばありそうじゃない?」
「はいはい、探しますよ。じゃあ、気をつけて帰れよ。何かあったら連絡しろ。」
大輔くんが笑って言うと、自転車を漕ぎ出す。
「ありがと、またね」
軽く手を振って見送る。
踵を返し、構内に入る。
気持ちの問題かな。
同じ場所の筈なのに、先週より明るく見える。
足取りも軽くなる。
ついついにやけてしまう。
「冴木先輩。」
改札への道の途中、呼ばれて振り返る。
後輩の佐藤くんがいた。
十時くんと同じ部署で、同じフロアの可愛い後輩。
私服は初めて見る。
「あれ?佐藤くん、この辺りなの?」
「はい…先輩別れたんじゃなかったんですか?」
いきなりの質問にびっくりしてしまう。
「うん、別れたよ。」
「じゃあ、今の人は?」
佐藤くんの間髪入れない質問。
少し怖くなる。