月の光-4
「はいはい、かわいい彼女を見つけなよ。」
「あー、俺の告白は冴木には通じないかぁ。ま、半年経っても彼氏いなかったら付き合おうぜ。」
「3年後なら考えないこともないかもねー。」
「お、三十路女は俺が考えるかもな!ま、冴木なら30なる前に大丈夫だろ。」
十時くんが笑って言う。
その時、机の上の携帯が震えた。
大輔くんだ。
「ごめん。上がるから!お疲れ様。」
「おう、また月曜日な!お疲れ!」
十時くんが手を振って見送ってくれた。
そのままオフィスを出て、電話をとる。
「お疲れ様。遅くなってごめんね。」
『いや、大丈夫。今どこ?まだ会社?』
「ごめん、今オフィス出たとこ。大輔くんは?」
『今由梨の会社の方に向かってる。おでん食べたくねー?』
大輔くんのおでんへの執着に笑ってしまう。
「ふふっ、そんなに食べたいんだ?」
『おう。だから駅で待ってろ。拾ってく。家の近くにある店、行こうぜ。』
「ん。じゃあそこにいる。」
『もうすぐ着くから。またな。』
電話が切れる。
金曜日の夜、オフィスを出るとサラリーマンがいっぱい。
その中を早足で急ぐ。
小さな花屋さんの前で待つ。
1台の見慣れた車が近づいて、目の前で止まる。
車の助手席の窓が開き、そこから大輔くんが顔を出す。
「人違いかと思った。髪、切ったな。」
大輔くんはそう言うとニヤリと笑う。
私は助手席のドアに手をかけ、乗り込む。
「スッキリしたでしょ?30センチくらい切ったもん!」
「スッキリしたじゃん。いいんじゃねーの?聡が見たら凹むんじゃね?出発するぜ?」
大輔くんはいたずらっ子みたいな笑顔を見せた。
それから他愛のない話をしながら、大輔くんの家にむかう。
駐車場に着き、車を降りる。
1週間ぶりに見たマンション。
でも何か懐かしい気がした。
大輔くんと並んで歩く。
歩きながらふと思った。
もう何年も飲んでるけど、こんな風に2人で待ち合わせして、歩いて飲みに行くなんて初めてかもしれない。
「ここ。おでん美味い!」
自信満々に笑う大輔くんを見て、私もつられて笑ってしまう。