続・せみしぐれ〜color〜(後編)-9
「学校の勉強だって、知らなかったことを知るわけでしょ?勉強ってさ、テストに受かるためにするんじゃないんだよ。これから先、なりたい自分になるために、知らないことをたくさん知っていくの。それが勉強だと、私は思ってる」
「…そんなふうに考えたこと、今までなかった…」
「じゃあ、これからちょっと考えてみて。そして、ちょっとでも勉強がしてみたいと思ったら、少しは手伝えるかもしれないから、いつでも声を掛けて」
今日は、これ以上の長居はしないほうがいいと判断して、私は、ひとり考え込んでいる様子の相模くんを残して部屋を出る。
「――あ、あの…結局、あんた誰なんですか?」
「えっ!?…あ、ここの宿泊客の…松下千波と申します…」
――パタン…
わ、私ってば、自己紹介もしないでまくし立ててたのね…。
そりゃ、訝しげにもなるよね。
でも、なんだか自分でもびっくりするくらい、言いたいことを言ってしまった。
あんなにたくさんしゃべったのなんて、人生で数えるくらいしかないんじゃないのかな。
それに、私…。
決して楽しい内容の話ではなかったのに、どこか心が弾んでた。
今、こうして話している自分の思いが、僅かでも相模くんに届いたらいいなって願ってた。
夫や両親と話をする時は、相手から一方的に伝えられることがほとんどで、でも、それに対して何かを思うことなんてなかったのに。
「なんか…不思議…」
自分だって、夫の元に帰れず逃げてる立場なのに、偉そうなこと言い過ぎちゃったかな?
「夕飯の時にでも、謝っておこうかな…」
そう呟いたら、また少し、心が弾んだ気がした。