続・せみしぐれ〜color〜(後編)-7
「ご、ごめんなさい!」
どうやら、ドアを開けた途端に倒れ込む形となった私を、とっさに抱き止めてくれたみたいだ。
「あ、いや…」
驚きの表情は、次第に気まずい表情へと変わり、彼は視線を逸らした。
――でも。
この2日間で彼が見せた、あの虚ろな表情とはかなり違って見えた。
…なんだ。
ちゃんと、こんな『生きてる』表情だってできるんじゃない。
ここへ来る前の彼は、誰とも話をしなくなる程、状態が悪かったと聞いていたけれど、これなら、夏の間を『さくらだ』で過ごすことで少しは回復できるのかもしれない。
本当は、初めて会った時から、あの虚ろな目が気になっていたんだ。
見たことのある目…だったから。
――そう。
あれは、自宅の寝室で夫に抱かれている時の私の目。
ベッドに横たわり、化粧台の鏡に写った私の――…。
「――あの、何か用事ですか?」
「えっ!?」
声を掛けられ、我に返る。
「…あ、あのね。おじちゃんから、君に勉強を教えてくれって言われたの。私も暇してるし…どうかな?」
とりあえず、精一杯の愛想を尽くしたんだけど…。
うわぁ、訝しげな視線が刺さる。
「…いらない。年下の子に教えてもらう程、落ちぶれたくない」
あぁ、やっぱり怒っちゃった…って、そうじゃなくって!
「ち、違うの!私、23歳な…の…」
しばしの沈黙。
やがて、再び部屋に入ろうとしていた彼は恐る恐る振り返り…まるで、珍獣を見るかのような視線を降り注いでくれた。
「…どうぞって、俺の部屋じゃないけど…」
戸惑いつつ、部屋へと招き入れてくれる相模くん。
「し…失礼します」
おずおずと彼の後に続く私も、かなりの挙動不審。
年下に見られる年上ではあるんだけど…実は私、ずっと女子校育ちの上、大学を出てすぐに結婚したもんだから、まともに男の人と付き合った経験がない。
それどころか、まともな初恋の記憶さえ――ない。
そんな私だから、異性と2人きりで過ごすというのは少し緊張してしまう。
「――あ、あの!」
先に、沈黙に耐えられなくなったのは私の方だった。
頬杖をつき、怒ったような横顔で窓の外を見ている少年に呼び掛ける。
「勉強…苦手なの?」
「別に…」
再びの、沈黙。
あえなく玉砕。
「じ、じゃあ、何の教科が苦手?」
「……」
う〜む、なかなか手強い。
「そ、それじゃ、何の教科が得意?」
「…保健」
「そっか保健ね…って、えぇっ!?」
「ガキの作り方、お姉さんが教えてくれるの?」
「ガ、ガキ!?」
――なんなのっ!
最近の子は、みんなこんなにやらしいのっ!?