続・せみしぐれ〜color〜(後編)-6
真っ直ぐに伸びた手足と、まだ幼さの残るあどけない横顔。
本来なら、学校のグラウンドで走る姿が似合いそうなその少年は、切れ長の瞳に何も映さず虚ろな様子で、静かに己の名前だけを告げた。
「相模 玲二です…」
――それが、私たちの出逢いだった。
「千波〜。お前は、頭良いのか?」
ある昼下がり。
おじちゃんの質問は、いつも唐突。
「ん〜、そんなに悪くはないと思うけど…」
一応、県下でも名門で知られる、大学までエスカレーター式の女子校に通っていた身だ。
その中でも、成績は常に上位だった。
…本当は、娘に無関心な両親の気を引きたくて、一生懸命に勉強したんだ。
でも、いくらテストで満点を取っても、父も母も振り向いてはくれなかったけれど。
「したっけ、お前、玲二にちょこっと勉強教えてやってくれねぇか?」
「えっ!?」
一昨日、ここを訪れた16歳の相模くんは、丸二昼夜が過ぎても相変わらず、何も見えていないかのような目で一人過ごしていた。
なんでも、都内の進学校に通っているみたいなんだけど、勉強についていけなくなって、精神的にも落ち込みが激しくなって…。
心を閉ざした彼を心配した御両親が、遠い親戚にあたるおじちゃん夫妻を頼ってきた結果、気分転換を図るため、夏休みの間だけここで過ごすことになったらしい。
「教えるのはいいんだけど…あの子、口きいてくれるのかな」
「なんだ、弱気だな。あの年頃のガキなんざ、女のことっきゃ考えてねぇんだ。お前が、年上の魅力ってやつをちょろっと見せてやりゃ大丈夫だろ」
「おじちゃん…それ、何の勉強?」
「あぁ、チビっこくて痩せてるお前じゃ、年上には見えねぇか」
「!!」
…全くもう。
チビで痩せてて、色白で…加えて垂れ目の童顔。
人がかなり気にしていることを、おじちゃんはサラリと言ってのけてくれた。
ブツブツ言いながら階段を登り、私は、相模くんの使っている部屋をノックする…が、返答はない。
「いないのかな?」
鍵が掛かっていることを確かめようと、ドアノブに手を伸ばした瞬間。
――ガチャリ
「…きゃあ!?」
「えっ――うわっ!?」
内側から開いた扉。
私の右手はドアノブに届かず、転ぶ衝撃に身を固くしながら気がつけば、間近に相模くんの顔があった。