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続・せみしぐれ〜color〜
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続・せみしぐれ〜color〜(後編)-3

『…本日、気象庁は…地方の梅雨明けを宣言…』


雑音混じりのラジオから流れるニュースが、夏の到来を告げる。
冬には真っ白な雪に埋もれるこの町も、今日は朝から眩しい太陽が照りつけて、山の向こうからは大きな入道雲が顔を出していた。

「そっか、もう夏なんだなぁ…」
ジリジリと肌を焦がす光線から身を隠しながら、私は真夏の青空を見上げる。

「…お〜い、千波!庭に水撒いてくれ!!」
玄関先から聞こえてくるのは、隣三軒先まで聞こえるかのようなおじちゃんの大きな声。
「はーい!今やりまーす」
日焼けの予感を胸に秘め、私は軒先を飛び出した。


私が住むF市よりだいぶ山が近いこのK町で、民宿『さくらだ』を経営するおじちゃん、おばちゃん――桜田重文さんと路子さんご夫妻に、駅で倒れたところを助けていただいてから、早くも半月が過ぎた。

すぐに下がると思っていた熱は、ところがなかなか軽快せず、しばらくは微熱でだるい身体を持て余す日々だった。
桜田さんが呼んでくれたお医者様に診てもらい、処方された薬を飲んで安静にしているうちに食欲も戻り始め、ようやく普通に動けるようになったのは、つい数日前のこと。

…発熱の原因となった、夫の暴力を受けてできた傷や痣は、火傷痕の化膿も治まり、内出血の青紫色は少しずつ薄くなってきていて。

――そして。
帰らなきゃ…って、その傷を見る度に、心の中では繰り返しそう思ってる。

でも。
居場所を知っているはずの夫は、連れ帰ろうとしたという半月前のその日以来一度も姿を見せず、それは姑も同じことだった。

…必要とされているはずの、自分という存在。
それが今、2週間以上も放置されたままなのだ。
嫁いでから間もないとはいえ、信じて疑わなかった自分の存在価値。
それに今、私は疑問を持ち始めている。

もしかしたら、私はとても大切な何かが見えていないんじゃないのかな?

携帯電話は、熱にうなされていた間に電源が切れたままだった。
でも、番号を覚えている夫の携帯電話に、連絡は入れていない。
もちろん、家にも。
だって、怖いから。
(…何が?)
夫の、容赦ない暴力が。
(…それだけ?)

違う。
本当に怖いのは、全てを知ってしまうこと。
夫の嘘。
ごまかしの結婚生活。
そして。
私が私についている嘘。

繰り返す、自問自答。
目を覚ますのが怖くて、私はここから動けずにいる。


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