続・せみしぐれ〜color〜(後編)-28
「――そうだね。元気でいてほしいね」
そう言って、おばちゃんに笑いかけたけれど…私、うまく笑えてるかな?
元気で…幸せで、いてほしい。
笑っていてほしい。
今もまだ、あの夏の恋から抜け出せない私の、今はそれがせめてもの願い。
「お〜い、ただいまぁ!」
「あ、放蕩ジジィが帰ってきたよ」
「ちょ、おばちゃん…放蕩ジジィって」
「おぉ、二人ともここに居ったんか。急で悪ぃけど、今晩からお客の追加だ」
「あれ、こんなお盆も過ぎて珍しい」
「いや、そうなんだけどな。ホラ、あいつだよ。玲二…相模 玲二」
「――――え……」
「あらぁ!今さっき、千波ちゃんと話してたとこだよ。偶然だねぇ」
「お、そうか!なんでも、十年前の忘れ物が何とかかんとか言ってやがったな。あいつ、パンツでも取りに来るんか。…お〜い、千波!?何、ぼんやりしてんだぁ」
どうしよう。
予想もしてなかった、こんな急展開。
…相模くんが、どうして急にここへ来るのか。
もしかしたら、誰かと一緒なのか。
私、なんにもわからない。
――でも。
息の仕方を忘れるくらい、胸が高鳴る。
「――おじちゃん、おばちゃん!」
「な、何だ?」
「どうしたの、あんた?」「私、もう一度あの夏に戻ってくる!」
「…ドラえもんにでも頼むか?」
怪訝な顔して見つめるおじちゃんたち。
――さぁ、思いっきり深呼吸をひとつ。
そうしたら、あの夏の続きを始めよう。
もう一度、あなたを信じてみたいから。
もう一度、あなたに触れてみたいから。
たぶん、これは神様がくれた『奇跡』。
だから…きっと、大丈夫。
だって今、私の目に映る景色は極彩色だから。
(終)