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続・せみしぐれ〜color〜
【その他 官能小説】

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続・せみしぐれ〜color〜(後編)-25

「――千波。いつか必ず『お前』が支払いに来い。もっと強くなって、全ての決着をつけて、お前が、お前自身の人生を歩きだした時に。…それまで、無利子で待っててやっから」


着の身着のまま、車へと引きずられていく私。
抵抗できないのが情けないが、運転手に加えて、夫の秘書までスタンバイしているこの状況じゃ、逆らったって結果は見えてる。

「乗りなさい」
大人しくなった私に満足したのか、ニヤリと笑いながら夫が車内を指差した。

「――千波ちゃん!」
「おばちゃん…?」
一旦、母屋へと入っていたらしいおばちゃんが、息せききって車へと駆けつけてきてくれた。

「…これ!持って行きなさい!」
手の中に押し込まれた、小さな巾着袋。

「身体に…気をつけるんだよ」
そう言って、泣きながら私を抱きしめてくれた。

『ありがとう』
そう言いたかったのに…言葉にならなかった。
こみ上げる嗚咽を堪えながら、私は、おじちゃんとおばちゃんに向かって深く、深く頭を下げた。

――ブォン…

車が、静かに走り出す。
遠くなる『さくらだ』
小さくなる二人。

…やがて。
車は、交差点に差し掛かかり、赤信号で止まった。
辺りはすっかり日も沈み、宵闇の中、ぼんやりと浮かび上がるその向こう、林の中に…あの神社がある。

相模くんが、いる。

けれど、車は青信号に変わった交差点を左折し、大通りへとその向きを変えた。
窓の向こうで遠ざかる、参道入り口の鳥居。


「千波」
重苦しい沈黙の中、夫が口を開いた。
「夏休みは、終わりだよ」

…そうね。
ここで過ごした2ヶ月は、私の『夏休み』だったのかもしれない。
眩しい太陽に照らされた、夢のような時間。

――でも。
小学生の頃、学校の先生が言ってた。

『夏休みの経験を、二学期に、これからに活かしましょう』

別れ際、おばちゃんがくれた巾着袋の中身は一枚の紙切れで、『さくらだ』の住所と電話番号、それと、私には覚えのない人の名前と電話番号が走り書きされていた。

そして、もう一枚。
「あ、これ…」

手の中に、浴衣を着て恥ずかしそうに笑う私と、からかわれて不機嫌そうな相模くんがいた。
夏祭りがあったあの夜、おじちゃんが撮ってくれた一枚の写真。

「―――――……!!」

もう、迷わない。
もう、泣かない。
私は、私の人生を歩いていくんだ。
『夏休み』の経験を、これからに活かして。
自分の力で。
大切な人たちと一緒に。


――『次』は、好きだって言うから。
ちゃんと、言うから。
そうしたら、たくさんたくさんキスをしよう。
だから、それまで。
「ほんの少しだけ…さよならね」


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