続・せみしぐれ〜color〜(後編)-16
「…あの、なんで俺なんかにそんなこと…話してくれたんすか」
「――え…?」
沈黙を破って響いたのは、戸惑い上擦った相模くんの声だった。
『なんで、俺なんかに…』
これは――拒絶の言葉だ。
そうして、その事実に深く傷ついた自分がいる。
…あぁ、今、初めて気づいた。
私、この子のことが好きなんだ。
「ごめん…。いきなりこんな身体を見せられてこんな話じゃ、引いちゃうよね。どうかしてた、私」
本当の私を、見て。
本当の私を、わかって。
…でも、これは私の我がままな欲望。
好きだからと、自分の気持ちを押しつけていいはずはない。
まして、彼は七歳も年下の高校生で。
数日後には…東京に帰るのだ。
「ごめ…ホント…に…」
笑っていたつもりで、私は泣いていた。
泣く私をずるいと非難する私もいるのに、一度零れ落ちた涙は止まらなかった。
相変わらず、社務所の屋根には叩きつけるかのような雨音が響いていて。
古ぼけた八畳間に2人。
まとわりつく湿気と暑さの中、流れる沈黙。
(ごめんね…)
きっと私、相模くんを困らせてる。
伝わる雰囲気でわかる。
何か、言わなきゃ…。
その時だった。
――カタッ…
「…あ、びっくりした…猫か…な…」
沈黙を破って、突然に外から聞こえてきた物音。
驚き顔を上げた私の呟きは、でも、最後の音まで声にならなかった。
ほんの一瞬、肩を掴まれ、世界が動いて。
――気がつけば、そこは相模くんの腕の中だった。
「えっ…ちょ…どうし…て…?」
問いかけに、返事はない。
ただ、抱きしめられている腕に、更に力が入った気がした。
「あ、あの、大丈夫だから!ね、離して…」
汗ばんだ肌から、相模くんの体温が伝わる。
こんな状況なのに、私の心は触れ合う温もりに喜んでいた。
…でも、ダメ。
頭の中では、さっきの相模くんの言葉がリフレインしている。
拒絶するなら、優しくしないで。
そんなのは、哀しい。
だから私は、この温もりから逃げだそうと必死にもがいた。