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続・せみしぐれ〜color〜
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続・せみしぐれ〜color〜(後編)-14

夏が行く。
心に、誰にも言えない小さなさざ波を立てながら。
――やがて。
それが、嵐になるのを予感しながら。


あの夏祭りから数日が過ぎて、相模くんが東京に帰る日も近付いてきた。
日毎に明るさを増す彼の表情は、平静を装いながら笑う私の心を掻き乱す。

この気持ちに、気づいてはいけない。
気づかれてはいけない。
だから、お願い。
早く、帰って。
私の目も、手も、届かない場所で幸せに生きて。

――でも。

『帰らないで』

ふとした時に唇から零れ落ちそうになるその言葉を、私は、幾度飲み込んだことだろう…。


「あ〜ぁ、やっぱり降ってきちゃった」
山の麓に広がるこの町は、天候も変わりやすく、特にこの時期の夕立は日常茶飯事のこと。

いつもの勉強会中、ひと息ついたところでおばちゃんから用事を頼まれ、相模くんと二人、散歩がてら駅前まで出掛けた帰り道のことだった。

「さっきまでは晴れていたのにね」
なんて話している間にも、急激に強くなる雨足。
「とりあえず、しばらく雨宿りしようよ」
そう言って駆け出す相模くんの後について、私も、ぬかるみ始めた道を走り出した。


「すごい雨だね…」
全身濡れネズミのようになりながら私達が駆け込んだのは、先日、夏祭りが行われていたあの神社の社務所だった。
鍵が開いていたのは幸いだったが、どうやら、常時解放状態のようだ。

「濡れちゃったけど…大丈夫?」
水が滴る髪の毛を絞っていると、背後から相模くんの心配そうな声が響いた。

「うん、大丈夫」
全速力で駆けてきたから、まだ呼吸も整わないし、雨で少し冷えたのか、なんだか肌寒い気もするのだけれど…条件は相模くんも同じことだから、心配はかけたくなかった。

…とは言え、せめて何か身体を拭くものでもあればと、辺りをキョロキョロと伺ってみる…が、目当てのものらしきは見つからない。

そんな時だった。

「…あの!これで身体拭いたほうが…」
「え?」
どうやら相模くんも同じことを考えていたらしい。
そのありがたい申し出に、私は振り返って――…。

「きゃぁっ!」
視界に飛び込んできたのは、上半身に何も纏っていない相模くんの姿だった。

凍り付いたように、身体がすくむ。
驚いたからじゃなく。
恥ずかしかったからでもない。

その瞬間、私の脳裏に蘇ったのは――予想もしていなかったはずの夫の姿、だったから。
怒りに目を輝かせながら、自らの着ていた衣服を破り捨て、私に襲いかかるあの時の――…。

途端に全身を支配する、恐怖の感情。

――違うのに。
彼は、あの人ではないのに。
わかっているのに、震えが止まらない。


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