続・せみしぐれ〜color〜(後編)-12
「…疲れた?」
「ううん、大丈夫」
じゃあ、ちょっと待ってて――と、彼は、少し先に見えてきた射的の出店へ、小走りで行ってしまった。
楽しみにしていたおもちゃをみつけたかのようなその笑顔は、やんちゃないたずらっ子のようで、周囲で走り回る小学生と大差ないように見える。
…もう、大丈夫だね。
たった3週間前には、話すこともままならないくらい心を病んでいたあの相模くんは、今はどこにもいなくなった。
闇を克服し、再び自分の力で日々を歩き始めた彼。
その姿が――今の私には眩しくて切なかった。
「どれが欲しい?」
満面の笑みを浮かべた少年は、出店の軒先で追いついた私を手招きし、店の奥に並べられた景品を指さす。
おもちゃの銃に弾を込め構える様は、何だか精一杯に格好つけてるみたいで笑ってしまう。
「…欲しいって言ったら、何でも叶えてくれるの?」
「そっ…んなの、取ってみなきゃわかんねぇよ!」
ちょっと意地悪したくなって、下からふいに顔をのぞき込んだら、露骨に視線を逸らされてしまった。
『欲しいもの』
…私が、欲しいのは――。
「どれがいい〜?」
自分も狙っている景品があるのか、真剣な横顔で再び問いかける相模くん。
「…ねぇ」
聞いてもいい?
触れても…いい?
「――えっ…」
小柄な私は、背の高い彼のその肩に手を伸ばし、爪先立ちで耳元に唇を寄せる。
だって。
この喧騒の中じゃ、こうしなきゃ聞こえないでしょ?
…これは、言い訳。
唇が、微かに彼の耳を掠めた。
「16歳の男の子…って、毎日どんなこと考えてるの…?」
――パンッ!!
「おーぃ、兄ちゃん!全然外れちゃってるよ〜!」
突然に、出店のおじさんの笑い声が響いて。
我に、返った。
(な、何を言ってるの私はっ!?)
自分でもよくわからない行動に、飛び退くようにして相模くんから数歩離れる。
「…あ、あれ?」
隣を見れば、同じく夢から覚めたような呆けた表情の相模くんがいて。
どうやら、一発目の弾は大きく外れてしまったみたいだ。
「ご、ごめんね!集中力削いじゃったよね」
「あ…いや、大丈夫」
こちらを見ずに、彼は再び銃を構えた。
ところが。
その後は、どうしたものか散々な結果に終わり…。
欲しいものどころか、お互いに気まずい空気のまま、帰り道もほぼ無言の展開となってしまった。