第二章「面接」-3
「三国志や水滸伝はわかるとして、池波正太郎、村上龍、東野圭吾、ハーレクインにジェーン・オースティン? こっちはニーチェとキルケゴール……。これ全部読んだのか?」
「まさか、ほとんどが父と母のですよ」
「だよなぁ」
「僕はまだ四分の三くらいまでしか読んでませんよ」
「……マジか?」
「本を読むのが好きなんですよ。帰宅部だし、他にあんまり趣味もないんで」
「お前さん、学校で変わりモンとか言われないか?」
「ええと、時々言われます。何が変わってるのか、よく分かんないけど」
考えてみれば、塾の講師と生徒という関係上、俺はシノブと勉強の話くらいしかしてこなかった。どこか旅行に行ったとか、髪を切ったとか、多少はそういう話もしたが、お互いのプライベートに突っ込んだ話はしなかった。
俺は確かにシノブに惹かれていたが、それは見た目だけのことと思っていた。思おうとしていた。社会人としての常識もあって、実際に手を出そうとは思わなかったのだ。
だが、家庭教師を引き受けてしまった以上、それだけの関係にとどまることは難しいかもしれない。それに、シノブの部屋を見て、俺はさらにシノブを知りたいと思うようになってしまった。
シノブの生足に惹かれていることも、まあ、否定はしない。