秋桜の季節-16
「神沢は昔からの友人で、高校の後輩なんですよ。だから大丈夫です。高梨さんのこともえらく気に入ってしまったみたいですね。その分ですよ。」
やっぱりモヤモヤは消えない。
もう、目の前で仲良しなのは確認して、十分ショックも受けた。
どうとでもなれ!そう思い、私は意を決して聞く。
「彼女さんじゃないんですか??」
「は??」
石田さんは想像できないほど間抜けな声を出した。
「いや、だから神沢さん…石田さんの彼女さんじゃないんですか??」
「ちがっ、違いますよ!!彼女じゃないですよ!ちょっと待って下さい!寄り道します!」
そう言って石田さんは道を変えた。
「俺は神沢とは付き合ってませんよ。さっきも言った通り神沢は昔からの友人で、昔から要の彼女です。」
「あ、土谷さんの??」
「はい。俺と要は小学校から仲がよくて。俺らが大学の頃あいつら2人が付き合い出したんですが、友人として、俺も神沢とその頃から知り合いです。」
「そうなんですか…」
何かホッとした。
土谷さんと、神沢さん。
妙に納得。
確かにそっくりな気がする。
そのまま緊張がゆるんで、一気に気が楽になった。
不安だった『あずささん』は一気に安心の『あずささん』になった。
それからは、仕事の話や、ご飯の話など、何気ない会話が続いた。
窓の外を見てると、全然わからない道を走っていた。
寄り道って言ってたけど、行き先を聞いていない。
「石田さん、どこに??」
「着いてのお楽しみですけど、前、高梨さんが窓口で行きたいって話していたとこです。」
しばらくすると少し開けた場所に出た。
キュッとタイヤが止まる。
エンジンを止めると、石田さんがすっとこちらを見る。
目が合う。
石田さんは視線を外し、そのまま運転席から出る。
私も慌ててシートベルトを外すと助手席のドアが開いた。
車から降りると波の音とふわっとした潮の香りがしてきた。
空には雲が多いが、綺麗な月が見える。
「海だぁー!」
「すみません、花火はないんですけど。」
石田さんが笑ながら謝る。
前、石田さんが窓口に来た時、倉山さんがお子さんを海に連れて行った話をしていて、その時私もその会話にお邪魔させて貰った。
で、私が夜の海に行って花火したいって言ったけど。