秋桜の季節-14
「私、26です。高梨伊織といいます。」
そう言うと、店長さんは少し驚いた顔をした。
「いいなぁ。可愛い名前!伊織ちゃんかー。響きもいいなぁ。しかも若かった!でも2歳ならほぼ同い年よね!今帰り??」
「はい。駅で待ち合わせなんですけど。」
「じゃあゆっくり見て行ってください。私、神沢といいます。また帰りに寄ってね!サービスするから!」
そう言って店長、神沢さんは名刺を差し出す。
「あ、すみません!私、名刺を職場においてて…」
受け取りながら謝る。
綺麗な桜色をした名刺には昨日から聞き覚えのある名前があった。
『神沢 あずさ』
あずささん…って。
この名前…何となく嫌な予感がした。
名刺から顔をあげ、神沢さんの方をみようとしたとき、
「高梨さん??」
いきなり背後から名前を呼ばれて振り返ると、石田さんが居た。
「すみません!私、電話っ!」
慌てて携帯を見ると、着信もメールもない。
「いや、すみません。ちょうど途中ココにいらっしゃったのが見えたので。そのまま。高梨さん、その花お好きなんですか??」
「伊織ちゃんはコスモスお好きみたいよ!」
石田さんの質問に神沢さんが間髪入れずに答える。
石田さんが驚いた顔で隣を見る。
「あ、あずさ!お前何してんだ!」
「待ってました!私、ここで店長してまーす!」
「は?!そんなの全然聞いてなかったぞ!」
「あったり前じゃん!創樹に言わないでって要にもお願いしてたもん!っていうかね、伊織ちゃんに夢中で、全然私に気づかないってどういうことよ。」
2人の会話が進む。
やっぱり神沢さんは、あの『あずささん』だった。
ただの偶然かと思ったけど違った。
仲の良い2人を見て少し切なくなった。
「伊織ちゃんが待ってたのはあんたでしょ!こんな阿呆らしい会話に付き合わせるのは申し訳ないしね。これでも持って伊織ちゃんをちゃんと送りなさい。」
そう言って店長さんはコスモスの切り花と他の花を包んで小さなブーケを作って石田さんに渡す。
そしてお店の外に誘導する。