アイカタ―――前編-9
見晴らしのいい高台にある公園の展望台の上で、俺たちは向かい合って立っていた。
「これからの人生――――俺と一緒に歩んでくれるか?」
シーナがじっと俺の目を見つめながら両手を差し出す。
「………えっと……えー………」
俺は突然、言うべき言葉がわからなくなり、頭が真っ白になってうろたえた。
「―――アホ!早よツッコめ!」
シーナに平手で頭をはたかれ、ハッと我に返る。
「ス…スマン。セリフ飛んだ」
「飛んだら飛んだなりにアドリブで繋がんと。もう本番まで日ないねんで!」
コンクール本番まであと二日に迫り、シーナも俺も結構カリカリしていた。
「シーナが俺に気がある」という設定のネタをやりだしたのは中学生の頃。
もともとは俺らがあまりに仲がええから、周りの友達に「お前らホモか」としょっちゅう言われてたのがきっかけで。
ネタの途中でシーナが急に真面目な顔で俺に迫ったり、思わせぶりなことを言って俺を気持ち悪がらせるというのがお決まりのパターン。
せやから、『これからの人生――――俺と一緒に歩んでくれるか?』と言われたら、俺はすかさず『なんでお前なんかと!』とツッコまなあかんはずのところや。
でも今の俺は、シーナの口から発せられるそのセリフに、不必要にときめいてしまう。
稽古の度に、そのセリフがくるのを楽しみに待ったりしてるあたり、なんかマジでホモっぽい自分が怖い。
「なんかソコ、いっつもキレ悪いなぁ」
俺が同じとこでばかり何べんもトチるもんやから、シーナも明らかに不自然さを感じている。
そうやシーナ……いい加減気付けや。俺の気持ちに。
「しゃあない。そこだけボケ変えるか」
俺の気持ちなんかこれっぽっちも気付かない鈍感男シーナが、胸ポケットから赤鉛筆を取りだし、台本に手を入れようとするのを俺は必死で止めた。
「やるやる!ちゃんとやるし!そのセリフは変えんとこ!」
異様なまでの俺の熱意に、シーナは驚いて眉をひそめる。
「な……なんやねん……怖いなぁもう」
「いや……ええ台本やし、変えるのもったないやん……」
―――鈍感!アホシーナ!
いや………こんなしょうもないことにこだわってる俺のほうがアホなんやろか。
シーナがこのセリフを言うたからといって、未来が変わるわけやないのにな。
せやけど……こんなふうにシーナと夢中でネタ打ちやってたら……またあきらめきれへんようになってしまう。
最悪、俺だけお笑いやるっていう選択肢もあるかもしれんけど、俺がやりたいのは漫才で、俺の相方は―――シーナしか考えられへん。