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アイカタ
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アイカタ―――前編-7




ネタの打ち合わせをするのは駅前のマクドと昔から決めている。


お互いの家で打ち合わせをしたことも何回かあるが、どちらかの家族が近くにいる空間というのは妙な照れが出るというか、今一つネタに集中できひん。


それぞれの生活や家庭を完全に切り離した場所のほうが、俺らの場合は上手くいくらしい。


笑いというのは、実になかなかデリケートなもんなんや。





「お前………すごいな。コレほんまに受験勉強しながら書いたん?」



シーナが受験勉強の合間に書きためたというたくさんのネタは、期待以上によく出来ていた。


茶色いトレーの上のフライドポテトはすっかり冷めてしまっていたけれど、そんなことはどうでもよかった。


びっしりと文字が書かれたボロボロのネタ帳に、シーナの漫才への情熱がぎっしり詰まっている。


想像を絶する忙しさの中で、シーナがこれだけのことをやってくれていたという事実に、俺は猛烈に感動していた。



「当たり前じゃ。お前が毎日アホみたいな顔して真弓の乳ばっかり揉んどる間、俺は寸暇を惜しんで並々ならぬ努力をしとったわけや」


シーナは腕組みをして鼻をフンと膨らませる。


「『乳ばっかり』て人聞きの悪いこというなよ。俺かて毎日漫才のこと考えとったっちゅうねん」


まあ確かに―――乳は結構な頻度で揉んでたけれども。



「なあ。パッと読んで、手応え感じるヤツあるか?」


ネタを書くのはシーナ。そしてその中からどれをやるかチョイスするのは俺、と昔から決まっている。


シーナ曰く、俺にはそういう直感力があるらしい。


「うん――――俺はな、この三番目のがええと思う」


それは本当によく出来たネタで、読んでいるだけで、舞台の上でバンバン笑いをとっている自分たちがすぐにイメージ出来るような内容やった。


「やっぱりか?俺もそれがいっちゃん自信あんねん!」


シーナは心底嬉しそうな顔でそう言うと、水分を吸ってベコベコになった紙コップをつかんで、コーラをゴクリと一口飲んだ。



「うん。去年より更にクオリティ高いんちゃう?」


俺は素直に感じたままを答える。



「当然やがな!去年と同じレベルじゃ全然アカン!俺らは去年の準優勝やいうだけでハードルが3割は上がる。審査員も初めからある程度期待しよる。それを更に2割以上越えていかんと優勝なんか到底出来へんで」


「まあ、せやわな」


「今回のコンクールは、俺らの8年間の集大成やからな」


「……集大成……」


何気なくシーナが言ったその言葉に、俺はまた軽く傷ついた。



―――やっぱやめるんやな、漫才。





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