アイカタ―――前編-4
「いやいや待っておっちゃん!僕今日はホンマにあかんねん。今から用事!」
これ以上ぐずぐずしているとヤバイと感じた俺は、二人の間をスルリと抜けて、家とは反対方向に向かってチャリをこぎ出した。
「なんやぁ?真弓とケンカでもしたんかあー――!?」
おっちゃんの怒鳴り声が聞こえたが、振り切るようにして角を曲がった。
今日あたりは絶対にヤバイ。
酒を飲んで腹を割って話したいというおっちゃんの意気込みが怖かった。
おっちゃんは、俺が高校を卒業したらこの鉄工所に入って欲しいと思っている。
この先もずっと真弓と付き合うっちゅうのは、つまりそういうことやし。
俺はしがないサラリーマンの息子で、しかも次男坊ときてるから、まさにおっちゃんにとっては思う壺。
これまでにも「未来の社長」とか「お前のぶんのツナギも先に発注しとくし」などという冗談を何度となく言われている。
うちの親も、俺がそうするもんやと思いこんでるみたいで、この時期になってまだ明確な進路を決めていない俺に対してさほど心配している素振りがない。
じわじわと外堀を埋められていくのはたまらなく息苦しいねんけど、俺にはまだハッキリと進路を決められへん理由がある。
せやから今はまだそのファイナルアンサーを回避したい。
ぼんやり実体化しつつある未来の自分から逃げるように、俺は取り敢えず必死でチャリをこいだ。