アイカタ―――前編-2
本田真弓とは家が近所で、親同士が元々仲がよかったこともあって、小さい時から一緒に飯食ったり風呂入ったりして、家族みたいにして育った。
せやから、物心ついた時には、真弓以上に親密になれる女が出来る可能性はゼロに近いというくらい、俺たちはお互いをよく知っていたし、いつも一緒にいるのが当たり前になっていた。
チューも触りっこも小さい時からふざけてやってたから、正直いつから正式に付き合い出したかわからへんくらい、俺たちの歴史は長い。
「アンタ……今、シーナのこと考えてたやろ?」
真弓が、塩と油のついた親指と人さし指を交互に舐めながら、恨みがましい視線で俺を睨みつけた。
「………え?……いや…………」
シーナの名前を出された途端、俺はぐっと言葉に詰まる。
「別に隠さんでもええよ。今に始まったことやないし―――」
「…………うん……スマン……」
「二次試験―――今日やもんね」
いっぺんにしゅんとなった俺を哀れに思ったのか、真弓はやれやれというようなため息をつきながら、勉強机の上に貼ってあるミッキーマウスのカレンダーを見上げた。
そこには俺の汚い字で「シーナしけん」と書かれている。
椎名修一郎は、小学校ん時からの俺の親友や。
いや、親友という言葉では足りひんくらいに、俺らは本当に仲がいい。
小学、中学と、クラスはくっついたり離れたりもしたけど、昼休みや放課後はほぼ毎日といってええくらい、俺とシーナはいつも一緒にいた。
シーナとならどんなに喋ってもネタが尽きたことはないし、シーナといたら絶対に飽きひん。
正直言えば―――真弓といるより楽しい。
いや―――真弓といるんが楽しないわけやないねんけど、シーナと俺の会話のリズム感とか、微妙な笑いのツボのかぶり具合とかは、もうなんちゅうか……次元がちゃうねんな。
真弓といてもついシーナの事ばっかり考えてしまうし、おもろいことがあれば、真弓よりまずシーナに伝えたいと思うことが多い。
せやから、真弓が焼きもちを焼くのも無理はないねん。
シーナん家はじいちゃんの代から続く開業医で、長男のシーナは医者になることが始めから決まっている。
実際シーナは勉強がむちゃむちゃよう出来たし、俺らが知らんような医学の専門用語とかも小さい頃からたくさん知っていた。
せやからシーナが医者になるんは、ずっと前から俺も頭の中では理解してたつもりやねんけど―――。
でもな――――。
「そんな心配せんでも、ぜぇったい大丈夫やって。シーナなら」
真弓は俺に安心感を与えようと、ことさら力強い口調で断言した。
―――大丈夫?
………わかってるわ。そんなこと。
K大の医学部を受けるって聞いた時は、正直レベルが高過ぎて「コイツ初めから落ちるつもりなんちゃうか?」と思った。
医者になるんが嫌やから、わざわざ落ちるような大学を選んだと思たんや。
せやけど、シーナは本気やった。
去年の春頃から、シーナは急に憑りつかれたみたいに受験勉強に没頭し出した。