アイカタ―――前編-10
「な、なぁ……シーナ」
俺は思い切って、前からずっと気になっていたことを切り出した。
「K大の合格発表て……いつなん?」
「え?………えーと。たしかちょうどコンクールの日やったと思うけど………なんやねん急に………?」
シーナにしてみりゃ俺の質問はあまりにも唐突やったらしく、明らかに怪訝そうな顔をしている。
「いや……お、お前さ……もし……K大……お、落ちたらどうするんかなー?……思て」
―――俺、今どんな顔してんねやろ?
例えて言うなら……他に好きな女が出来たという彼氏に、しつこくすがり付く「重い女」みたいな………。
『―――あたい待ってる!アンタがあの女に振られるの、ずっと待ってるからぁぁぁっ!!』
そう泣きわめきながらシーナにすがり付く、女装姿の自分を想像して、我ながらげんなりした。
「オイオイ!落ちたら……て、縁起でもないこというなよ」
少しムッとした顔で答えるシーナ。
やっぱ受かりたいねんな。
当たり前やけど。
「でも……落ちたら………」
「うん……お、落ちたら?」
「―――ま、浪人するしかないやろな」
一瞬悩んだものの、そう結論づけたシーナはもうケロッとした顔。
一方、これまでなんとか持ちこたえていた俺のテンションは、一気に地下へ潜りこんでしまった。
「………浪…人………」
ああ、やっぱ聞かんかったらよかった………。
それって、俺にはもう望みがないってことやん。
「せやけど―――ケンタはええよなぁ―――」
シーナがふいっと向きを変えて展望台の手すりに寄りかかる。
「お前には―――本田鉄工っていう切り札があるやん………」
「……え……?」
何の悪意もない感じでさらりと言ったシーナの言葉に、俺は思いがけず胸をえぐられた。
「ア、アホか―――真弓とはまだ……そんなんちゃうわ………」
口では否定しながらも、胃袋の付け根あたりがずくんずくんと痛い。
――――ちゃう。
アホなんはシーナとちゃう。
ほんまにアホなんは俺や―――。
あまりにも動揺し過ぎて、それから後の練習は、どうしても身が入らなかった。
ずっとカバンに入れたまま持ち歩いている「芸人養成学校」のパンフレットは、結局渡せず仕舞いに終わった。