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淡恋
【同性愛♂ 官能小説】

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淡恋(後編)-9

白髪の男がいなくなったホテルの部屋の窓をあける…。

生ぬるい都会の風の中に、赤やオレンジの猥雑なネオンの光が歪み、僕の瞳の中が潤みながら
溶けていく。

涙がふたたび溢れ出てくる。溢れだした涙は止まりそうもなかった。それでもよかった…。


ふと、僕の肩を背後からマサユキさんが抱いてくれるような気がする。僕は瞳を閉じた。そのと
き、マサユキさんが、僕のうなじに懐かしい唇を寄せたような気がした…。


…カズオが、もし女の子だったら、もっと好きになれたかもしれない…


僕は、マサユキさんの嘘のかけがえのない優しさを、心の中でしっかりと抱きしめた…。



―――


私が、カズオ君に会ったのは、何年ぶりだろうか…。

九月の連休のときだった。偶然、新宿の行きつけの喫茶店で、カズオ君に声をかけられたとき、
私は、一瞬だれなのかわからなかった。彼…いや、彼女は、女の私がうっとりするくらい魅惑的
な女性だったのだ。


彼は、私が以前、燿華という名前でS嬢をしていたSMクラブで、美形のM男として働いていた。
当時、特別なプレイコースとして、クラブのママが始めたものだった。その頃、私はカズオ君と
知り合いになったのだ。

以前は、ホストクラブで働いていたというカズオ君は、そのSMクラブに入ってきたとき、どこ
か暗い感じのする男の子で、ほとんど自分の過去の話をすることはなかった。


SMクラブを訪れた男性や女性客相手に、責められる役のM男のカズオ君は、美型ということも
あって、客にかなり人気があったものだ。当時から、色白のとても可愛らしい男の子だったこと
に記憶があるが、今日のカズオ君は、すっかり落ち着いた女性そのものだった。
今は、いくつかの風俗誌のモデルをやっているらしい。


すでに三十五歳になったというカズオ君は、三年前に性転換をし、女性として生まれ変わったと
言う。艶やかな長い黒髪、淡い輝きをもった睫毛と薄い唇…そして、なだらかな胸のふくらみや
括れた腰つきは魅惑的な女性の線を描き、うすいピンク色のワンピースがよく似合っていた。


喫茶店でコーヒーを飲みながら、カズオ君の昔話を初めて聞いたとき、私は目元が微かに潤むの
を感じた。カズオ君がSMクラブをやめたのは、マサユキさんの死が原因だったという。

そのとき以来、私はカズオ君と会うことはなかった。




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