焔の精霊-1
ここはゼビアの国の魔法学校のカフェテラス。
通りに面した一番目立つ席に3人の男女が優雅にお茶を飲んでいた。
1人はこの学校の学長ベルリア。
最近切ったらしい蜂蜜色の髪を軽く後ろに撫でつけ、紫色の目で通りを見ながら何やら話している。
「ねぇ、リン。男漁りは程ほどにしてくれないかな?」
優雅なティータイムに相応しくない言葉がベルリアの口から出る。
リンと呼ばれた女性はベルリアそっくりの紫色の目を合わせる事なく、ケロリとした顔で答えた。
「だって男日照りが続いてたんですもの」
腰まである長い蜂蜜色の髪を耳にかけてお茶を一口。
「あ?俺じゃ満足出来なかったってか?」
もう1人の黒髪の男が肘をついた手に顎をのせ、ベルリアと同じように通りに黒い目を向けたまま話に割り込んできた。
「アンタのセックスには愛が無いのよ、愛が」
「ああ?単なる魔力提供に愛が必要かよ」
「女心が分かってないわねぇ〜」
「けっ、散々喘いでたくせに……」
「馬鹿みたいにイかせればいいってもんじゃないのよ、坊や」
「んだと?コラ」
「……2人共……」
いい加減やめないか、と目で訴えるベルリアに2人は黙る。
何が悲しくて義理とはいえ自分の息子と双子の片割れの情事を聞かなければならないのか……
「とにかく、魔導師でもあることだし……自粛するように」
ベルリアはため息をつきつつリンに釘をさす。
「はぁい」
リンは肩をすくめて大人しく返事をした。
「……で?アース。彼女とは上手くいってるのかい?」
話題を切り替えたベルリアの質問に、アースと呼ばれた黒髪の男はニヤリと笑い答える。
「ああ、体の相性はバッチリだぞ?」
まだ下ネタを続けるつもりか、と睨むベルリアに、ケケケと悪戯っぽく笑ったアースはそれで話を打ち切った。
「ふぅん……体以外は相性悪いわけ?」
変な話の打ち切り方に何かあるな、と思ったリンは突っ込んで聞く。
チラッとリンに目をやったアースは、再び通りに視線を移すとポツリと呟く。
「つうか、俺の事が好きなのかどうか……いまいちわからん……」
ひと月も一緒に暮らしているし、何度も体を重ねてはいるが、好きだの愛してるなどと言う言葉は聞いた事がない。
初めて会った時に『目は好きだ』と言われたが……正直、微妙だ……