焔の精霊-3
「ねぇ、キャラ」
その背中に突然リンが声をかけた。
肩越しに振り向いたキャラは軽く首を傾げて次の言葉を待つ。
「アースの事好き?」
「嫌いじゃないですよ?」
だから何?とキョトンとするキャラに、リンは顔を引きつらせてもういいわ、と手をひらひらさせ立ち去るのを見送る。
「良くわかんない子ね……」
「アースには丁度いいんじゃないかな?」
今まで女性に対してそこまで誠実じゃなかったので、その罰だろう、とベルリアは肩をすくめるのだった。
キャラは急いでアースを追いかけたが、既に資料室に本を運び込んでくれていた。
入り口に手をかけて息を整えながら中を見ると、アースは本棚にもたれて装丁されたばかりの本を読んでいた。
薄暗い部屋に溶け込むような黒髪に黒いジャケットなのだが、逆光に照らされて輪郭がほんわりと光っていてとてもキレイだ。
気配に気づいたアースが本から黒い目を上げ、キャラを見つけると優しく微笑んだ。
どうもこの目に弱い。
この黒い目で優しく微笑まれるとドキドキする。
「あ…本ありがと」
胸の高鳴りがバレないように平静を装って中に入る。
「なんだ、走ってきたのか?」
キャラが近づくと手を伸ばして頬に触れる。
軽く汗をかいて上気した肌は、多分走ったから……だけではない。
(むやみやたらと触るなっ……)
……と思いつつも抵抗できない……というかしたくない。
アースの触れ方はいつもひどく優しくて心地いい。
目を閉じて甘えたい気持ちをなんとか抑えこみ、軽く体をそらしてアースの手から離れる。
「オレの仕事だか…らあっ!」
素っ頓狂な声をあげたのは、アースが腰に手を回して引き寄せたから。
アースは本棚にもたれたまま両手でキャラの腰を抱き、その手を組むと上からキャラの表情を覗き込んだ。
「離せ」
つい赤くなってしまった顔をそらして身じろぎする。
「嫌だ」
そんな仕草も可愛く感じてしまうアースは顔を下げて耳をペロリと舐めた。
「ふにゃっ」
「くくっ、ふにゃってなんだよ」
「んっぁ…しゃべんなっ」
変な声を出してしまって恥ずかしいやら、耳元で喋られてくすぐったいやらでどうしていいかわからない。