恋愛小説(6)-10
「千明」
「ん?」
「好きだ」
「知ってる。私もちーくんの事好きやもん」
「そうかもしれない」
「かもしれない、じゃなくて、そうなん」
「じゃあそうだ」
「ちーくん?」
「ん?」
「好きやで」
「知ってる。僕も千明のこと好きだから」
「ははっ、何これ。おかしなちーくん」
「千明だって」
随分と冷え込んで来たなぁ、なんて千明を抱きしめる手に力を込めると、腕の中で千明が小さく呟いた。「冷た」
「どうしたの?」
「ん?わからん。なんかひやっとした。ん?雪?」
見上げると空の至る所で白い雪が舞い踊っていた。右に舞い、左に舞い、流れるように下へ下へと下降していく。僕の頬を濡らし、千明の帽子に積もり溶けて行くそれは、いつか見た一瞬で消えてしまう花火のように儚く綺麗だ。
「ホワイトクリスマスやん」
「なんか、恥ずかしいね」
「ん?なんで?」
「柄じゃないけど、クリスマスも祝福してくれてるのかなって」
「ははっ、ちーくん似合わなすぎ」
「かもしれない」
「きっとサンタさんがプレゼントくれたんやん?」
「……うん。そうだね。きっとそうだ」
それだけ言うと、僕はそっと千明の唇に僕の唇を重ねた。もう何も言う必要は無かった。あったとしても、どうでも良かった。眼をつぶり、僕の世界を千明の唇だけにしてしまおうと思った。それぐらい素敵なキスだった。
「ちーくん」
「ん?」
「へたくそ」
「あれ?」
「ははっ、うそうそ。一回言ってみたかってん」
「やれやれ」
再び歩き出した時にはもう雪が積もりだしていて、すぐに僕の靴はびしょびしょに濡れてしまった。でもかまわなかった。後ろを振り返ると、僕と千明の足跡がはっきりと残っていたから。このまま。このまま二人で。
ゴールはもうすぐそこ。
続く。