異界幻想ゼヴ・ラショルト-16
「やっぱりやっちまったか!」
クゥエルダイドが縊り殺される瞬間を目の当たりにして、ティトーは呻く。
こんな下衆のために手を汚す必要などなかったろうに、というのがティトーの心境である。
「フラウ、大丈夫か?」
へたりこんでいるフラウを、ティトーは助け起こす。
「ありがとう……」
立ち上がったフラウだが、腰が定まらない。
「この、木の根のせいで……」
せめて自分がクゥエルダイドに組み付いていたらジュリアスは罪を背負わずに済んだかも知れないと思い、フラウは歯噛みする。
「木の根?」
不思議そうなティトーに、ジュリアスが言う。
「恋愛相手に困らないお前にゃ必要ないから知らないだろうが、それ……お香があるだろ。あれは強力な媚香なんだ。たぶん深花をさらって意識が回復する前から嗅がせ、抵抗する気力を奪ってからじっくり料理したんだろうよ」
「……使った事があるんだな」
効能だけでなく使用方法まで詳しいとなると、そうとしか考えられない。
「娼館でな。効果はかなりのものだ」
ほじくり返したい過去ではないのであっさり言って済ませ、ジュリアスは深花を助け起こす。
火照った肌に、汗と精液の入り混じった匂いが鼻をつく。
「あ、う……ああぁ……」
クゥエルダイドの代わりが来たと認識したのか、深花はジュリアスの股間に手を伸ばした。
「これ……これちょうだい……」
服の上から肉棒をさすり、物欲しげにおねだりする。
「今のお前は抱けねえよ」
愛おしげに股間へ頬擦りする深花を引き剥がしながら、ジュリアスはやるせない気分に打ちのめされる。
せっかく深花が助けを求めてくれたのに間に合わなかったばかりか、こんな痴態まで拝む羽目になるとは……。
「ねえぇ……」
ふらつきながら、フラウが傍までやってきた。
「ジュリアス。あなたにする気がないのなら、あたしがするわよ」
「あ?」
一体何を言い出すのかと思い、ジュリアスは問い返す。
「あたしも嗅いじゃったから……抜けるまで治まりなんてつかないわ。深花も、ね」
「……お前、体質合わないのかよ」
初耳だったが、物置へ突入できずにへたりこんでいた事実を鑑みればそう言い出した理由は分かる。
「……なら、頼む」
ジュリアスは、ティトーを見た。
分かっていると視線を投げ、ティトーは踵を返す。
「ただし、ここ以外でな」