異界幻想ゼヴ・ラショルト-15
「!」
盗み聞きに相伴しようというのか、ジュリアスの思考が割り込んできた。
『ばっ……くんな!!』
警告は、一瞬遅い。
「そら、また復活した。イクぜぇ……!」
「っあああ……!」
粘液が絡み合う音と太股のぶつかり合う音、なまめかしい声がジュリアスにも聞こえる。
隣にいるジュリアスの顔色が青というより白くなり、フラウはぎょっとした。
「深花がいた。行くぞ」
建物の表側に向かって歩いていくジュリアスを、フラウは慌てて追いかけた。
怒りが過ぎてかえって冷静になっているのか、足音も気配も全く感じさせない。
ゆっくりその場を離れながら、ティトーは心の中で呟いた。
さようなら、クゥエルダイドと。
頭の中は、異様に冷静だった。
建物の正面入口から入り、物置の前まで歩いていく。
建て付けの悪そうなドアの前に立つと、聞き耳を立てる。
ドアを僅かに押せば内側から鍵が掛けられているのか、妙な抵抗があった。
「あうぅ……ああっ、もっとぉ……!」
「おう、またくれてやるぞ……!」
「んん……!」
ストロークが加速していく最中、ジュリアスはドアを蹴り開けた。
ドアの破砕音に、クゥエルダイドがこちらに振り向く。
組み敷かれた深花とクゥエルダイドの唇が、粘糸で繋がっていた。
「どけ」
紫煙の漂う室内に踏み入ると、クゥエルダイドの首を掴んで二人を引き剥がす。
「あぁん……!」
勢いよく結合を解かれ、深花が不満の声を上げた。
「がっ!?」
勢いに任せて、並ぶ棚にクゥエルダイドの体を叩き付ける。
「フラウ……フラウ?」
クゥエルダイドを代わりに押さえさせようとフラウを呼んだジュリアスは、応答がないので一瞬だけそちらを見る。
フラウは入口でへたりこみ、動けない事を目で訴える。
それを見て、ジュリアスは即座にクゥエルダイドを拘束した。
「何してやがった、てめえ」
静かな……けれど震え上がるような迫力が滲む声で、ジュリアスは問う。
問われたクゥエルダイドは、鼻で笑った。
「この格好を見りゃ分かるだろ?いただいてたんだよ!」
「女の同意なしでな」
ジュリアスは、鼻を鳴らす。
「嗅いだ事がある。こいつはリステュルティカの木の根だ……こんな媚香、どこで手に入れた?」
「さてね。しかし、どうしてばれた?」
彼の目論みでは少なくとも、明日の朝までは大丈夫なはずだった。
朝までには木の根の効能も抜けるし、後は家に帰して後日たっぷり逢瀬を楽しめばいいだろうと考えていた。
こんな長時間交わり続ける強烈な体験は、女の側も虜になる。
あんなに警戒していた深花も、これからは誘えばほいほい股を開くようになるだろうと踏んでいたのだ。
そして、女を寝取られたジュリアスの悔しがる顔を拝んで優越感を味わえるだろうとも。
「候補生のくせに、座学をサボってたな」
ジュリアスは、技をかけ変えた。
「俺達はな、普通の人間にはない強い絆で結ばれてんだよ」
クゥエルダイドの首が、不吉な音を出して軋み始める。
「最後の情けで聞いてやる。言い残した事はあるか?」
にぃ、とクゥエルダイドは笑う。
「お前の女、最高だったぜ」
「死ねっ!!」
鈍い音がして、クゥエルダイドの首が折れた。
ティトーがやってきたのは、この時である。
建物の管理人に捕まって二人が駆け込んでいった理由の説明を求められたため、到着が遅れたのだ。