熱帯夜の終わり-7
「そのうちいい人連れてくるわよ」
「だといいんだけど…。秀君みたいなカッコイイ子が息子になってくれたらいいわぁ」
そんな事を言ってゲラゲラ笑うくらいだから、当然おばさんのこの発言は冗談だったんだろう。でもその時の俺はそんな状況を判断するほど冷静じゃなくて、
「今の話ほんと!?」
玄関にUターンしておばさんに詰め寄った。
「え?」
俺のあまりの剣幕にきょとんとするおばさん。
「今、俺みたいな息子欲しいって言ったよね!?」
「え、えぇ…」
言うなら今しかない!
嘘とか冗談とか言って発言を取り消される前に、何か言わせる間も与えず頭を下げた。
「秀徳、あんた何を――…」
不吉な何かを察した母親が俺の行動を止めようとする一瞬早く叫んだ。
「娘さんを俺に下さい!!!!」
静まり返る空間。
ピンと張り詰める空気。
その日、俺は数年振りに母親に殴られた。
*
PM9:00。
確信があって窓から目を反らさずにいたら、ガタガタと雨戸が動き出した。
だだの暗闇だったそこからまっすぐ光が漏れ出して、待ち望んだ人が顔を出してくれた。
「何考えてんの!?」
みのりさんがまた窓を開けてくれたことが嬉しくて、怒ってると分かってても顔がにやけてしまう。
「お帰りなさい」
「お母さんに何言ったの!」
「あ、聞いてない?言おうか?」
「いっ、言わなくていい!」
「言いたいのに〜」
「ふざけないで!!」
「全然ふざけてないけど」
「ふざけてるじゃん!」
「周りから固めていく作戦ですよ」
そう、これは作戦。
まずは身内に俺の存在をアピールして、あわよくばおばさんの言うところの“いい人”の候補に入れてもらうんだ。
「お母さんには秀君と付き合ってるのかって聞かれるしお兄ちゃんにはロリコンって言われるし」
「ロリコンはひどい」
「社会人と高校生じゃそう言われても仕方ないでしょ!」
「まぁ、確かに」
言いながら、いつか返そうと思っていた借り物を取り出した。