熱帯夜の終わり-6
*
今日も窓は開かないか…
ただの壁と化したみのりさんの部屋の窓をぼんやり眺めた。
せめて雨戸だけでも開けてくれないかな。同じ閉め切りでもカーテンの方がまだ救いがある。
『秀君を好きだったから』
思いがけない告白は、より一層の後悔と罪悪感を増してくれた。
もっと早い段階で謝っていたら、もしかしたらうまくいっていたのかもしれないんだ。
あの少ない日々の中で、みのりさんは俺のどこを好きになったんだろう。思い返してもひとつも心当たりが無い。
俺はただわがままを言って振り回してただけなのだから。
あの日からずっと自分の部屋のカーテンは開けっ放し。出かける時以外は窓も全開。
馬鹿みたいだけど、いつかみのりさんが窓を開けてくれた時にすぐに気づいてもらえるようにって…
本気で謝りたいってこと。
本気で好きだってこと。
どうしたら信じてもらえるんだろう。
全部じゃなくてもいいから、その気持ちの破片だけでも伝えたいのに。
*
「ただいまー…」
いつも通り玄関を開けると、
「お帰り」
そこにいたのは母さんと
「お帰りなさい」
みのりさんの、お母さん。
手には回覧板。届けに来てそのまま話し込んでんのか。
これがみのりさんだったらなぁ…
「秀君、男前になったわねぇ」
ありがちな社交辞令は愛想笑いでやり過ごして、靴を適当に脱ぎながらさっさとその場を立ち去ろうとした。
みのりさんを泣かせた罪悪感でまともにおばさんの顔が見られない。
「みのりちゃん、綺麗になったわよね。彼氏とか連れて来るの?」
こらババア!俺の前でなんつー質問しやがる!!
「全然。いい年して一人も連れてこないの」
「そうなの?」
そうなの?
つい聴覚が二人の会話に反応してしまう。
「だからこの前言ってやったの、いい加減誰か連れてきなさいって」
気になっていつもの倍時間をかけて廊下を歩いた。
みのりさんの答えは―…
「あの子、家族の前で一生結婚しないって宣言したのよ」
…………最悪。
予想通り、俺のせいで完全に男性不審になってるじゃないか。