熱帯夜の終わり-5
「もう、名前も呼んでもらえない?」
「…」
「謝っても無駄?絶対許してくれない?」
「そーゆう問題じゃなくて」
「じゃあ、どーゆう…」
「あたしが子供の嘘に振り回されてただけじゃない」
「…」
「よく考えたら引っ越して来てから10年たってるんだもんね。それに気がつかないあたしが馬鹿だったの」
「みのりさん…」
そんなわけないだろ。
悪いのは嘘ついた俺だし、こんな風になるって予想もできなかった馬鹿も俺だ。
「昨日、叩いてごめんね」
無言で首を横に振った。
謝らないでよ。
余計惨めになるじゃん。
自分がどれだけ幼稚か思い知らされて、泣きたくなる――…
「じゃあね」
「あ、あの、みのりさん!」
「何?」
「…窓、開けませんか」
「開けない」
「これでお別れですか」
「あたし達、別れるような関係じゃないじゃない」
「昨日好きって言ったの、嘘じゃないから」
「信じないって言ったよ」
「でも本当に好きだから」
「何回言われたって、信じない」
「なんで…」
なんで?
そんな馬鹿な質問があるか。
決まってるだろ、俺が嘘ついてたからだよ。
俺が――…
「秀君を好きだったから」
「………へ」
思いも寄らぬ言葉に耳を疑った。
誰を好きだって?
「でもあの秀君はもういないから」
「俺は――」
「あなたの事、何も知らないもん」
「これから知ってよ」
「無理」
「なんで」
「なんでって」
俺の質問は相当おかしかったんだろう。はぁ、とため息をついて、それはそれは困った顔で俺を見た。
「あなたをどう信じたらいいの?」
「…」
「でしょ?」
親や先生にでも諭された気分。みのりさんは何も間違ってない。
「ですね…」
認めるしかなかった。