熱帯夜の終わり-4
「お姉さんの居場所は分かるんだろ?」
「まぁ、隣の家だしな」
「待ち伏せろ」
「…」
「またそーゆう目で見る」
「考えた挙げ句、出てきた案がストーカーってなんだよ」
「ストーカーじゃねえよ!待ち伏せ」
「ストーカーだろ」
「でも他にやりようがないんだからしょうがないじゃん」
「…」
確かに、そうなんだ。
昨日最悪な別れ方をして、窓は開けてくれないし当然電話にも出てくれないだろう。
この終わり方だけは嫌だ。
せめて本気だったことだけでも伝えたい。
はっきり言って吉村の作戦に乗るのはものすごく不本意だけど、背に腹は変えられない。
今日、みのりさんと話そう。
*
意気込んだものの、今の俺は相当怪しい。
何時に帰ってくるか分からないから、とりあえず定時だと思われる17:00過ぎから玄関の前をうろうろ。
親に夕飯はいらないと伝えて出かけるふりをしてパンとジュースを持って電柱の影に隠れて…って、張り込みか!
あぁ、もう完全に夜じゃないか。いい加減帰ってきて――…
「あ」
アスファルトに月明かりでできた人影が見えた。暗くてはっきり見えなかった姿は、街灯の下に来てようやく確認できた。
みのりさんだ!
電柱から飛び出して前に立ちはだかった。
「こ、こんばんは!」
とりあえず挨拶。
制服姿を見るのは一ヶ月振りか。髪はアップだし、眼鏡も知的で可愛い…けど、眼鏡の奥に見える目は凍りそうなくらい冷たい。
「待ち伏せ?」
「あ、いや、偶然…」
「パンとジュース持って?電柱の影で?」
「…えぇ、まぁ」
「ストーカー」
やっぱり言われた。
吉村の案になんか乗ったばっかりに、嘘つきの上にストーカーになっちまった。
「あの、みのりさん…」
「なによ」
「えっと、」
話しかけたものの、何をどう切り出したらいいんだ?
何かないか。
何か――…
「帰っていい?」
「それ!」
右手に持たれてるコンビニの袋を指差した。
「それ…、なんですか」
もう死ねよ、俺。
そんな会話の持って行き方があるか。
「ビール」
「へ…」
「高校生には関係ない飲み物よ」
「…ですね」
「あなた、本当はいくつなの?」
「17歳です」
「高校、3年生?」
「いや、2年…」
「本当に子供だったんだ」
「…」
また、あなたって言われた。
子供って言われた。