熱帯夜の終わり-3
*
お互いの窓を全開にしていた時は、隣から聞こえてくる朝の支度の音がすごく嬉しかった。
でも今日は雨戸が閉められたせいで何も聞こえない。
AM7:30。
もう出勤した後だな。
俺も学校行かなきゃ…
制服に着替えて鏡の前に立つと、当たり前だけどそこに映るのは17歳の高校生。
せめて本当に大学生だったらちょっとは希望が持てたかな。
「行ってきまーすー…」
だらだらと家を出ると、
「おはよ」
吉村が出迎えてくれた。
「…」
「また嫌そうな顔する」
嫌なんだよ、実際。
誰のせいでみのりさんにばれたと思ってんだ。誰のせいで嫌われたと思ってんだ。人の気も知らないでへらへら近づいて来やがって――…
「なぁ、秀徳」
「お前とは絶交する」
「なんでだよ!!」
「お前が関わるとろくなことがない」
スタスタと早足で歩き去ろうとする俺の後ろを小走りでついて来る吉村。
「どーしたんだよ、秀徳ぃ」
「どーもしねーよ」
「まだ浴衣のお姉さんのことで悩んでんのか?」
「うるせえ」
「悩みなら俺に話してみろって」
「あぁ?」
「もしかしたら役に立つかもしれんぞ」
…一体どの口がそんなこと言うんだ。
「じゃあ話してやろうか」
「おぉ」
「責任に潰されて死ぬぞ」
「またまた〜」
「あのお姉さんは――…」
こいつ相手に真剣に悩み相談するつもりはなかった。大袈裟な言い方をすると、自暴自棄。どうでも良かったんだ。
そうして俺は吉村に全てを話した。事の発端から昨日の結末に至るまで全部寸分違わず。
「…マジか」
結果、吉村は案の定責任に潰されて死にかけている。
「だから言っただろ」
「ごめん、秀徳…」
「涙目になるな、気持ち悪い」
「俺、タイミング悪すぎるんだな」
タイミングだけだと思うなよ。
って言おうとしたけど、これ以上ダメージを与えると本当に死んでしまいそうだからやめておいた。
「秀徳」
「なんだよ」
「また話してみたら?」
「無理無理」
「なんで」
「俺は嘘つきだからな」
「…」
「なんでこんなんなっちゃったかなぁ」
さっきまでの早足とは一変、歩幅は小さくなり足取りも心なしか重い。
学校からは予鈴が聞こえてきて、後ろから慌てて走ってくる数人の生徒に抜かされたけど俺と吉村は変わらず歩き続けた。