紫黒の夜-2
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森を抜け、近くの町にあった小さな宿の一室。
「ホント、化け物ね。あの狼って」
椅子に座り、ウルに髪をすかれながらアリシャは嘆息を漏らす。
「あれらは狼ではごさいませんよ。ヴァンパイアの仮の姿です。その証拠に紅い目をしておりましたでしょう?」
慣れた手付きで緩やかに波打つ金色の髪を弄りながら、ウルは少女へと説明を加える。
「ウルもアレの仲間なんでしょ?」
髪と夜着を整え、アリシャは自分の脇に立つウルを見上げた。
癖の無い真っ直ぐな黒髪、キメ細かい白い肌に切れ長の紅い瞳と唇。身体のラインを隠す青黒いエプロンドレスを着ていても解る細身で、美人と呼ばれる類いの女性であるウルは目を細めて微笑む。
「そうでございます。アリシャ様。――さあ、お休みなさいませ。もうお疲れでしょう?」
アリシャに手を差し出し、ベッドへと促すウルに少女は迷うことなく手を重ねる。そして、ベッドに上り、傍に佇むウルへ目を向ける。
「ウル」
アリシャは着せて貰った夜着のボタンを2つほど外し、白い肩をさらけ出す。
「……アリシャ様……。怖くは無いのですか?」
ベッドサイドに腰を下ろすと、少女と向き合い、首筋に撫でるように指を這わせ、ウルはまだ幼さの抜けきらない少女に問いかけた。