双星の魔導師-12
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「15年かあ」
「え〜?なぁに?」
リンと分離して初めての朝を過ごしながら、ベルリアはアースと会った頃を思い出していた。
リンはパタパタと朝食を作りながらベルリアに振り向く。
「ん?ほら、あの頃後40年はかかるって思ってたからさ、早かったなあって」
「寂しい?」
「少しね。でも、もう君に振り回されずに済むってのが一番嬉しいな」
失礼ね、と頬を膨らませたリンはすぐに笑顔になる。
「これからリンはどうするんだい?」
ベルリアは学校の学長だが、リンには特に役職はない。
「そうねぇ、暫くは学校で雇ってちょうだい」
「じゃ、講師と事務処理頼むよ」
「わかったわ」
仕事内容はバッチリ分かっているので引き継ぎ要らずで楽だ。
「……ねぇ、リン」
ベルリアはソファーで寝ているアースとキャラに目を向けて気になっていた事を聞いてみる。
「アースに彼女が出来たってのは母親役的にはどう?」
ベルリアは特に何も思う事は無いのだが……
「そうねぇ…普通に人を好きになる事が出来て安心したって所かしら?」
「?」
「ほらぁ、アタシ達の関係って特殊じゃない?そのせいで恋愛抜きのセックスが当たり前みたいになってたからぁ〜」
確かに来るもの拒まず、去るもの追わずというアースの態度には感心できない所があった。
「まさかあの子の口から『惚れた女』ってセリフが聞けるとは思わなかったわ」
リンは嬉しそうにくすくす笑う。
「妬いたりしないのかい?」
普通の母親は息子を他人に盗られたら妬くものだ。
「ちょっとだけね。でも、キャラならいいわよ。まだよくわかんないけど……母親の勘かしら?」
彼女ならありのままのアースを受け入れてくれる。
そんな気がするのだ。
「ふぅん……」
そんなものか……とベルリアは納得する。
「おお、夢にまで見た一般家庭の朝だな」
いつの間にか起きたアースとキャラが台所の入り口に立っていた。
「あら、おはよう」
「おはよう」
リンとベルリアの挨拶にくすぐったそうに笑うアース。
(こいつのこんな笑顔は初めて見たな……)
やっとちゃんとした親子になれた気がしたベルリアは、持っていた新聞でさりげなく顔を隠し、同じように笑うのだった。