黒の魔導師-6
(声は好みなんだがな……)
こんな状況でもどうせなら女性と行動したいなあ、と少しガッカリする。
燃え落ちて来る木を凪ぎ払いながら進むと、火元らしい場所を発見した。
2人は、茂みからコッソリと火元を覗く。
そこには、人の3倍はあるであろう大きさの、火蜥蜴が大暴れしていた。
よくよく見てみると、どうやら魔法陣の罠にかかったらしい……が、罠に対して獲物がでかすぎだ。
火蜥蜴の皮や肉は高値で取引されるので、こういった狩りはよく行われているが、火蜥蜴は貴重種なので狩りは禁止されている。
つまり、密猟。
火蜥蜴の周りには、真っ黒に焼け焦げた物体が3つほど転がっていた。
罠を仕掛けた密猟者達だろうが……まあ、自業自得だろう。
「ふむ……」
アースは魔法陣に目を向けたまま、手を顎に当てて考え込む。
「どうするんだ?」
キャラは黒い物体から目をそらしてアースに聞く。
「ん?あぁ……火蜥蜴を殺して売っちまえば金になるなぁって……冗談だ……」
魔法陣を見たままのアースは、キャラの冷たい視線を感じて手をヒラヒラさせる。
「魔法陣を解除しようと思うが……複数絡み合ってるみたいだな……」
仕掛けていた魔法陣では捕らえきれなかったので、魔法陣を追加したのだろう。
魔法陣が1つだけなら解除は簡単だが、複数が絡み合っているとなると解除は複雑になってくるし、集中力も必要になってくる。
(今の魔力じゃ足りねぇな…)
嫌がらずにもうちょっと返してもらっときゃ良かった、と後悔する。
さて、どうしようか、と考えたアースは1つだけ手っ取り早い方法を思いつくが、気が進まない。
しばし、思案した後、意を決してキャラに目を向ける。
「えっと…キャラ?お前、魔力持ってるか?」
魔力を持ってる人間は少ないが、精霊が見えるということは持ってる可能性が高い。
「持ってるけど」
キャラの答えにため息をつきつつ、アースは聞く。
「俺に魔力をわけてくれる気はあるか?」
本当に気は進まないのだが…。
「いいけど、どうやって?」
聞かれてアースは一瞬黙る。
「……気に入らんと思うが……口移しだ…」
「はいぃ!?」
当然の反応にアースは苦笑いする。
(俺だって嫌だもんなぁ…)
何が悲しくて1日に2回も男とキスせにゃいかんのだ、とアースは思い、この提案を却下する。