黒の魔導師-30
時間は午前1時。
大魔法を行ったリンとベルリアは、アースの寝室を借りて寝ている。
先ほど、少し寝た事で体力が回復していたアースとキャラは、魔法陣を消す作業をしていた。
「アンタと会ってから、まだ1日しか立ってないんだな…」
床を雑巾で拭きながら、ポツリと呟くキャラにアースは目を向ける。
山火事に巻き込まれたり、いきなりキスされたり、そのまま成り行きのように体を重ねたり、魔法学校で働く事になったり、女性の手でイかされた挙げ句、魔力を吸われたり、大魔法に立ち会ったり……1日でやるには内容が濃すぎる。
はふっとため息をつくキャラをアースは笑いながらからかう。
「ハハッ、お前1日で何回イった?」
「そこじゃねぇよ」
そんな事を言ってるんじゃない、とキャラは顔を赤らめて言う。
自分の人生が大幅に変わる内容なのに、あっという間にいろいろ進んでしまってついて行けない。
「嫌か?」
あまりキャラの気持ちを考えずに巻き込んでしまったアースは、今更ながらに反省してキャラに聞く。
「ん〜結果的に嫌じゃあない……けど、次からはその質問を早めにしてほしいかな?」
アースは猪突猛進型らしく、ついていくのは大変だ。
「了解」
他の人間にそんな事言われたら、てめぇの都合なんか知るか、で終わるお願いだが、キャラの言う事なら素直に聞ける。
掃除を終わらせた2人は寝室を占領されているので、そのままソファーに寝た。
朝日の眩しさに目をさましたキャラは、台所の物音に気づく。
アースは横でまだ寝ている。
ソファーから降りて台所に行くと、リンが朝食を作っていて、ベルリアが椅子に座って新聞を読んでいた。
「おお、夢にまで見た一般家庭の朝だな」
いつの間にか起きたアースが、キャラの後ろから欠伸をしながら言う。
「あら、おはよう」
「おはよう」
リンとベルリアは普通に挨拶してくる。
両親揃った不思議な光景に、アースはくすぐったそうに少し笑い、
「おはよう」
と答える。
親を早くに亡くしたキャラも、同様に笑って挨拶する。
「おはようございます」
朝食が終わると、ベルリアは学校へと仕事に行く。
アースは講義が午後からということで、キャラの部屋にする物置を片付けたりしていた。