黒の魔導師-12
「遠慮はいらない。助けてもらった礼だと思ってくれ。」
アースはキャラを覗き込んで、どうする?と目で聞く。
キャラに選択肢はあまりない。
これを断ったら野宿だ。
山道を走り、魔力を吸われ、かなり体がだるい。
出来る事ならゆっくりと休みたい。
「……んじゃ…今夜だけ…」
誘惑に負けたキャラはアースの提案を受け入れた。
アースは心の中でガッツポーズを取ると、気が変わらないうちに、とキャラを抱き上げ目を金色に変える。
「なななっ」
「掴まっとけよ」
慌てるキャラに注意して、アースは風を操り、ふわりと空へ飛び上がる。
「…うっわぁ…」
落ちないようにしがみついたキャラは、眼下に広がる景色に目を輝かせた。
「飛ぶのは初めてか?」
聞くアースにキャラは目をキラキラさせて頷く。
キャラを盗み見ながらアースはくすりと笑いスピードをあげた。
少し飛ぶと、湖が見えてきて、その横に建っている倉庫のような建物の近くに着地した。
アースはキャラを抱いたまま足でドアを開けて中に入ると、ガランとした無駄に広い居間の真ん中にある馬鹿でかいソファーにキャラを降ろす。
「ほい。到着。
台所はあっちで、風呂とトイレはこっち。
寝室はそこ。好きに使っていいぞ。」
手早く説明した後、アースはふと眉をひそめる。
「そういや、お前、荷物は?」
持ってないじゃん?と言うアースに、キャラは言いにくそうに答える。
「えっと…燃えた?かも?」
山火事に慌てて荷物を放り出して走ったので、多分きれいさっぱり燃えただろう。
呆れたアースは寝室に行くと自分の服を持ってきて、キャラに投げた。
黒いシャツを受け止めたキャラはキョトンとしてアースを見上げる。
「でかいだろうが、洗ってある。さすがに下着は無いがな」
「あ、ありがとう」
肩をすくめたアースはドアに手をかけて振り向いた。
「あ、学校の方に報告とかしねぇといけねぇんだが、お前の事話しても大丈夫か?」
わけありなら黙っておく、と言うアースにキャラは笑って答える。
「気を使ってくれてありがと。大丈夫」
その笑顔を見たアースは、頭をガシガシ掻くと、ツカツカと戻ってきて身をかがめ、キャラの頬にキスを落とす。