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続・せみしぐれ〜color〜
【その他 官能小説】

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続・せみしぐれ〜color〜(前編)-1

物心ついた頃から、私の日常には色がなかった。
とはいっても、網膜や角膜といった機能に特別な問題があるわけではなく、もちろん、粉雪の舞う白銀の世界に住んでいるわけでもなく――ただ、なんだか全てが同じように色褪せて見えてしまう世界。
当然のことながら、そこに楽しみをみつけることはできず、だから私は、純真無垢であるはずの幼き日々にも、友達と遊んだり、家族と行楽地へ出掛けたりするような、そんな楽しみを味わったことがない。
だが、それ以前に――例え私が、ものすごく朗らかで可愛らしい感受性豊かな子供だったとしても、私に友達はいなかっただろうし、我が両親は、私を遊園地や動物園に連れて行ってくれるようなことはしなかっただろうけれど。

『室町時代から続く、由緒正しい名家のお嬢様』――これが、生まれた時から私に張りついている代名詞。
某球場と同じくらいの敷地面積を持つお屋敷で育ち、華道茶道に日舞とお琴…数々の習い事に囲まれて、お嬢様の王道を突き進む人生を歩んできた。
でも、友達を作ることもできないくらいお稽古三昧に励んでも、どれほどテストで百点を取ろうとも、それを褒めてくれるはずの両親が側にいてくれた覚えは…ない。
会社を経営していた父親は、その一日のうちのほとんどを社長室で過ごし、料理研究家として名を馳せる母親は、これまた同じく、多忙を理由に帰宅は年に数回だった。
おかげで、撫でてほしかった頭はいつも淋しいまま、私の心は砂漠のように乾燥し、いつしか、その目に映る世界は色が亡くなっていった。

――やがて。
端から見たら順風満帆、何不自由ないお嬢様として、親の決めた人生をただひたすらになぞり生きてきた私の名門大学生活も、残すところあと僅かとなった頃…事件は起こった。
父親が経営する会社が事業に失敗、多額の損失を出してしまったのだ。
信頼していた部下にいとも簡単に裏切られ、半狂乱となった父親が選んだ最後の再生の手段――それは、私の結婚だった。

まともな恋愛さえしたことのない身に、突然の嫁入り話。
それまで、どれほど両親と会えない淋しい毎日を送ろうと、どんなに色褪せたつまらない毎日を送ろうと、一度たりとて不満は口にしたことのない私だったけれど、この時は違った。
とにかく、全身全霊で泣いて拒んだ。
…でも。
22年間、お人形のような人生を送ってきた娘の初めての自我は、娘をお人形のようによく出来た可愛い子だと盲信する両親へは…届かなかったんだ。

かくして私は、大学を卒業と同時に結婚をした。
10歳年上の夫は、彼の祖父が設立したという小さな工務店が大成功し、今や数々の大型ビルや家屋の建築及び不動産業を手掛ける、県内でも有数の資産家の一人息子で。
もちろん、その財力を以て父の会社の再建に手を貸す――それが、この結婚に隠された本当の目的だった。

嫁ぐその日まで、実の娘に理解も労りも示してはくれなかった両親に絶望しながら、それでも、眼鏡の奥の瞳が優しいこの夫に、これからは精一杯尽くしていこうと、涙が枯れるほど泣いた私も、ようやく決意して迎えた結婚式。
大きなホテルで盛大に行われたパーティーで、夫は何度も私に『幸せにしてあげるよ』と囁いて。
――でも。
それが、恐ろしい生き地獄の幕開けだった。


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