淡恋(前編)-6
「もっと、いい声を出せよ…うれしいだろう…」
男は唇で僕の耳朶を舐めるように、耳元で呟いた。
彼の片手が屹立した僕のペニスの包皮の縫い目の皺をなぞり、ふんわりとした垂れ袋を揉みしご
くように掌で包む。
男の太い指が陰嚢の中の睾丸をコリコリと弄くると、その淫靡な感触に反応するように、ペニス
がのけ反るように喘いだ。つるりとした包皮がしごかれ、ペニスが息苦しく悶える。
男に背後からがっしりと抱かれ、彼の烈しく揺れ動く腰の動きで、僕の薄い胸肌に幾重にも這う
ように喰い込んだ縄が、肌を烈しく緊めあげていく。
嗜虐される快感…
男に貪られる緊縛されたからだが、烈しく疼き、僕の肩まで伸ばした黒髪が、汗で、べっとりと
首筋に絡む。男の気だるい吐息が、僕の耳朶を包み、男のもので犯される快感が、尻穴から
からだ全体へと痺れるように突き抜けていく。
もっと…もっと烈しく責め立てられたかった。
でも…からだの芯まで、彼のものになり、虐げられれば虐げられるほど、なぜか僕は僕自身であ
り続けようとしている自分を感じた。いや…その僕自身が、マサユキさんへの切ないような淡い
思いを喘ぐように求めていたのだ。
僕が高校三年のとき、すでに地元の会社で働いていたマサユキさんと、忘れもしない最後の夏の
ひとときを過ごした。そのあと、東京に行くとポツリと言ったマサユキさんとの連絡は途絶えて
しまった。
…どうして、マサユキさんは僕から離れていったの…
そう、自問を繰り返す日々にあった僕は、高校を卒業すると、マサユキさんを追うように上京し
たのだった。僕は、マサユキさんの友人を頼って彼の行き先を捜したけど、行き先はずっとわか
らなかった。
そのマサユキさんと、偶然にも三年ぶりに再会できた場所は、僕が働いていた銀座のホストクラ
ブだったのだ…。
マサユキさんは、厚化粧の太った中年の女に連れ添われるように、僕のホストクラブに現れた。
僕たちはお互いの糸をたぐり寄せるように長い時間、見つめ合った。僕の心は変わってはいなか
った。ただ、戸惑いながら、僕から視線を避けようとするマサユキさんが、そのときどんなこと
を思っていたのかはわからない。
でも… そのときのマサユキさんは、もうあの頃のマサユキさんではなかったのだ…。
マサユキさんは、すでに連れ添われたその女のものになっていたのだ。
僕は、偶然、街中でマサユキさんを見かけた。豊満な胸とむっちりしとた尻を振るその女に腰を
抱かれ、寄り添うようにホテルに消えていったマサユキさんの後ろ姿に、僕は胸を掻きむしりた
いほどの息苦しさに襲われたのだった。