投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

喫茶『Sigh of Relife』
【その他 その他小説】

喫茶『Sigh of Relife』の最初へ 喫茶『Sigh of Relife』 0 喫茶『Sigh of Relife』 2 喫茶『Sigh of Relife』の最後へ

マルゲリータは眠らない-1

カシャッ……カシャシャシャ……

白いライトを受け、銀色に煌めくシェーカーの中で氷と数種類の液体、そしてストレーナーキャップの中に残った僅かな空気が踊り、瞬く間に混ざり合っていく。

――カシャン

なんの迷いも感じられない堂々とした音で、シェーカーを振る手が止められた。

「……マルゲリータです」

そして、二杯の、縁に塩を塗られたチューリップ型のシャンパングラスへと注がれた琥珀色の液体は、間もなく“ぼく”の目の前へと出された。
――二杯目は空席の、ぼくの右隣の席へと静かに置かれる。
それを目の端に杯の脚を持ち、ぼくはグラスの三分の一ほどを喉に流し入れた。
ライムの酸味、塩の塩味、コアントローの甘味、そしてテキーラの放つ独特の香り。
飲み下すと、最後に一気に温度が上がったアルコールに胸が熱くなった。

――美味い。

マルゲリータは完成されたカクテルだ。
類似のカクテルにホワイトレディーやサイドカーがあるが、アレにはレモンを使うが、こちらはライムである。
スノースタイルにするのも、マルゲリータのみ。
と、言うのも、このカクテルの原型はライムと塩を舐めながらテキーラを飲むという、所謂、メキシカンスタイルをカクテルへと昇華させたからなのである。

「ふぅ……」

もう一口。
グラスに注がれた後のカクテルは否応もなく温度が上がってしまう。その祭に味が崩れてしまうことも、バーテンダーの腕次第では、ままあった。
けれど、このマルゲリータにその心配は必要ない。
微細の綻びもないカクテルで喉を鳴らしたぼく。

「……うん。美味しいよ、相変わらず」

「ありがとうごさいます」

カウンターの向こうで微笑んできたのは、またまだ若いひとりの男。
名前は佐竹靜。たしか、この前、二十六になったと言っていた。
ぼくがこの店に通い始めたのは彼のお父さんがマスターをしていたころからだったし、ちょうど、本社勤務が決まったころでもあったはずだから、十五年近くか。
小学生のころから、彼のことを知っている計算になる。
――ただ、彼の職業はバーテンダーではない。
いや、ちゃんと食品衛生管理者の資格を持っているし、保健所からも営業認可を受けていることは入り口の壁にかかった許可証を見れば明らかだ。
ぼくがいいたいのは、もっとちがう意味で……そう。バーテンダーの最低必要条件として、バーのマスターでなくちゃならないということである。
けれど、彼はバーテンダーじゃない。この店がバーではなく、喫茶店だからだ。
昼間に来たこともあるが、その時間には周辺に住んでいるのだろう主婦たちや通りがかりだろうサラリーマンの一人客、学生もちらほらと見かけた。
だが、正確な時間は決まってないのだろうが、夕方以降、この店の様相は変わる。
昼間のクラシックとはちがい、BGMはジャズとなり、注文もコーヒーや紅茶からアルコールへと変わるのだ。
だから、バーではないけど、まあ、美味しいカクテルを出してくれるのはたしかだった。
雰囲気的にはパブ――パブリック・バーと呼ぶと聞こえがいい。
そんな喫茶店『Sigh of Relife』も、現在時刻十一時過ぎ――。


喫茶『Sigh of Relife』の最初へ 喫茶『Sigh of Relife』 0 喫茶『Sigh of Relife』 2 喫茶『Sigh of Relife』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前