春の夜の夢-1
「はい、これ。」
「ありがとね。後で返すから、窓開けといてちょうだい。」
「あいよっ。」
俺には同級生の幼なじみがいる。
家は隣で二人とも二階に部屋があるが、窓を開ければ互いにの部屋を行き来できるようになっている。
今だって、美緒が学校に電子辞書を忘れたって言うから、窓越しに貸してやった所だ。
ミャー。
「あ、猫。」
下の路地に目をやると、黒猫がこちらを見上げて鳴いていた。
「ほんとだ、可愛いー!」
動物好きの美緒が、おいでおいでと手招きをしてみる。
しかしその黒猫はぷいっ、とどこかに行ってしまった。
「…猫って、無愛想で気まぐれで、あんま好きじゃないわ。」
「そんなことないわよ!人懐っこい猫だっているもん。心を許した人には可愛く甘えてくるし、たまらないわよ?」
にこっ、と笑って美緒が窓を閉めた。早速宿題をしはじめるようだ。
そういや美緒は、どことなく猫に似てる所があるか?
サラサラの髪の毛は猫っ毛だからブローが大変とか言ってたし、目はくりくりに丸く、それでいて目尻がキュッと上がって愛らしい。
学校ではしっかりしてるが、二人きりの時には甘えてくる。猫がそうするように、しなやかな体を俺にこすりつけてくることだってある。
あいつが言う、「心を許した人には―」ってことだろうか。
実際、俺と美緒は高校に入った今まで特定の恋人を作らずにいた。
美緒を好いているし、あいつだって俺を悪くは思っていないはずだ。
しかし、ずっと一緒にいたし、これからもこのまま変わらないという状況が、二人をグレーゾーンに留めているのだった。
昔から美緒はドジをしでかすと泣いて俺にしがみついてくる。妹のように可愛く思ってきたが、互いに成長していくにつれ、いつしか美緒の中にはっきりと女を認め、大事にしたい反面自分の手で汚してしまいたいという欲望が心の中にチラつき始めた。
体つきも日に日に女らしさを増していくことを意識しているのか、していないのか。あいつは甘えてくる時に豊かに膨らんだ胸を俺の腕に押しつけたりする。
妹のように可愛い、と見過ごすことが難しくなってきているほど下心を刺激してくる。今は2月―動物的には発情期を迎える時期だ。年頃の女だし、もしやあいつも発情期なのか?