異界幻想ゼヴ・ヴェスパーザ-25
「お、姫君のご登場だな」
軽口を叩いて、ティトーは深花を迎え入れる。
「モテてるみたいじゃないか」
かすかな嫉妬のトゲを感じさせる声で、ジュリアスは言った。
「まだそういう人を作る気にはなれないから、モテたって嬉しくないわよ」
「……」
自分の言葉でダメージを受けているジュリアスを見て、ティトーは内心苦笑する。
「そういえば深花」
だから、ダメージを受け流せるよう助け舟を出して話を逸らした。
「あの相伝歌をよく覚えていたな。それに、声も訓練されていたし」
「ああ、それは……」
何故か、深花が言い淀む。
「……祖母が、教えてくれたんです」
「!」
二人は驚いて、目を見開いた。
「祖母が趣味として声楽を習い始めた時に、私も一緒にどうかと勧められて一時期ボイストレーニングを受けた事があって。歌は……ばあちゃんが秘密の言葉で作った内緒の歌だから、誰にも聞かせちゃ駄目よって前置きして教えてくれたんです」
イリャスクルネは、孫娘になにもかも託すつもりだったのだろうか。
ティトーの頭が、忙しく回転し始めた。
「どうして秘密にしなければならなかったのか、今なら分かりますけどね」
苦笑しながら結んだ言葉とその表情には、一抹の寂しさが漂っていた。
「踊って疲れたろ。何か飲むか?」
重苦しくなりかけた雰囲気を払拭しようと、ジュリアスは声を出す。
「ん〜……」
少し考え込んでから、深花は首を振った。
「まだいいわ。気を使ってくれて、ありがとね」
「そ、そうか」
微笑みかけられたジュリアスがどぎまぎしているのもこの挙動不審っぷりに深花が何も気づかないのも全てがおかしくて、ティトーはそっと笑いを噛み殺すのだった。