Time-1
気が付くと、僕は“ここ”に立っていた。
ここは、どこ?
右も左も何もない。
…あるのは、目の前の建て付けの悪そうな扉と、暗闇に浮かぶ長い一歩道だけ。
さて、どうする?
この得体の知れない扉を開いていいものなのだろうか?
扉の向こうには、何があるのだろう?
試しに、扉をノックしてみる。
…返事はない。
ドアノブをひねってみたが、どうやら鍵がかかっているらしい。
「はぁ…」
ため息をつきながら振り返ると、そこには何かをくわえた一匹の犬がいた。
黒くて大きくて、毛が長めの雑種。
…僕は、この犬を知っている。
「ラブ?」
そう僕が言うと、その犬はしっぽを振った。
…やっぱり、間違いない。
この犬は、ラブだ。
でも、なぜラブがここに?
だって、ラブは、、
チャリン
ラブがくわえていた物が、音をたてた。
…鍵だ。
この扉の?
僕が手を出そうとすると、ラブはスッと立ち上がり、そのままスタスタと僕に背を向け歩いていった。
「ちょっ…待って、ラブ!」
僕は、ラブを追いかける。
しばらく行くと、真っ暗で何もない、ただの道の向こうに、ポツポツ光が見えて来た。
光が見えて来ても僕は、ゆっくり歩くラブの後を追いかけた。
ラブは、時々振り返りながら、その道を歩いていた。
だんだん光が近付いて来る。
あれは、何の光なんだろう?
…あれは、
僕は、その物の形を見て、とても驚いた。
大きいビー玉?
水晶玉?
いや、もっとでかい。
巨大なガラス玉のような、シャボン玉のようなものが、沢山浮いている。
中に、何かが見える。
…あれは、小学校の頃の僕?
ラブと、公園を走っている。
僕は、別の中も見てみる。
…そこには、友達とカラオケで騒ぐ僕。
僕の様々な思い出が、球状の何かに入って、無数に浮かんでいる。
何かに惹かれるように、僕はそれに手を伸ばした。
ワン!!
僕は、ビクッとして立ち止まる。
ラブがいきなり吠えた。
どうして?
僕は不思議に思ったけれど、すぐにわかった。
…僕の足元。
その一歩先に、道はなかった。
ラブは、口から落ちた鍵を再びくわえ、またゆっくりと歩き出した。
道幅は狭く、真っ暗で底は見えない。
もし、落ちてしまったら、どうなるんだろう?
…どこまで落ちるんだろう?
そんな事を考える僕の横を、僕の思い出は通り過ぎて行く。