ルラフェン編 その二 月夜の晩に-6
「おや? お主だれじゃ?」
するとリョカの様子を見に来たベネットと、額にタオルを当てたフローラがやってくる。
「あ、あの……えと……」
アンはベネットよりもフローラが居たことに驚いているらしく、リョカの背後に隠れようとする。
「こちらはアンさんです。僕の知り合いで、絵を取りに来ていたんですよ」
「絵を? お主、画家かなんかか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど、恩人と約束をして、青い髪の女の子に絵を渡してって言われていまして、今日がその日だったんです。すっかり忘れていて、しょうがないから鍵を開けてもらって……。すみません、修行の途中だったのに……」
リョカはすらすらと嘘を並べ立て、肩掛け鞄から真っ白な画用紙を取り出し、二人に見えないように丸めてアンに渡す。
「はい、これが今回の分。アニスさんによろしくね」
「あ、どうも……」
リョカのウインクにアンはきょろきょろしながら頷くと、ベネットに軽く会釈して出て行く。
「ふむ、あの子の相当な素質をもっておるの。もし良かったらウチで修行をしてみてはどうかな?」
ベネットは顎髭を撫でながらアンの去っていったほうを見る。
「あら、私はてっきりベネットさんのよろしくないクセかと思いましたけど?」
そういってフローラは腰に回されたベネットの手を軽く抓った。
「あいちち……。フローラちゃんはほんと鉄壁じゃの……」
ベネットは手のひらを軽く吹きながら、リョカに向き直る。
「で? 本はどれぐらい読めた?」
「えと、この本とこの本……ですね。そういえばベネットさん、この竜の紋章って何かご存知ですか?」
リョカは気になっていた天女と少年の本を取り出し、ベネットに見せる。
「うむ? ああ、これは確か、竜の神様の話じゃな。そうじゃな。いわゆる神話の時代か……。ま、御伽噺みたいなもんじゃ。今のお主が読むには丁度良いかもしれんな……ほっほっほ」
まるでリョカの魔法の腕前を子供扱いするベネットに、リョカはまだまだ未熟なのかと一息ついた。
一方、フローラは二人のことよりも鍵の周りを丹念に調べており……。