ルラフェン編 その二 月夜の晩に-3
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「リョカ、居るか?」
「――!?」
再び聞こえてきた迷惑な同行人の声に、リョカはまたも背筋をぞくりとさせる。
「脅かさないでよ、シドレー……」
「何が?」
「怖い本読んでて……。それで、シドレーの言う事がいちいちないようにフィットしてて……」
「ほう、それはよかったのう……。俺ちょっとガロンの散歩に行ってくるけど、ちゃんと修行せいよ」
「はいはい、わかったよ……」
「はいは一回でええで」
翼の羽ばたく音がしたあと、集中が切れたせいか光が弱くなる。
「おっと……」
リョカは慌てて印を結び、光を先ほどより強くさせる。それは怪談のせいかもしれない。
シドレーの気配が消えるとなると一気に静かになる。もともとベネットのお家自体町外れにあることもあり、昼間であるにも関わらず、リョカは不思議と怖くなっていた。
これ以上怪談の類を読むのもいやになり、気を紛らわせるためにも別の本を取る。
その本には表紙に竜の絵が描かれており、例の不思議な剣の柄に良く似ていた……。
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天女と少年
少年は探していた。石化した両親を元に戻す方法を。
強い魔力による呪いで石となった両親を助けるため、少年は村を出た。
村の外には魔物がたくさんいるが、それでも少年は挫けない。
なぜなら彼には不思議な特技があったから。
少年は魔物と心を通わせることが出来るのだ。
彼に平伏した魔物は、彼と共に歩み、そして彼の率いるサーカスに参加した。
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手にした本はあまりにも子供じみていた。ただ、表紙に絵が描かれていた剣が竜に良く似ていることからか、気になった。もしかしたら、この本もまた例の剣に関わるものかもしれない。魔法好きなベネットが子供向けの冒険譚を集めるのにも理由があるだろうと、リョカは捲り始める。
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少年を見つめる赤い目の青年。銀の髪を風になびかせ、剣を巡って対峙する。
少年もまた両親を救うため、退くことはできない。
……アと……アは彼らを見つめ、どうしてよいかわからず、ただ成り行きを見守っていた。
『その剣は……ロ君が持つべきもの。そう運命付けられています……』
緊迫した二人の間に踏み込む燐とした声。
『運命など俺は信じない』
『けれど、貴方はその渦中に居る……。そして、君もまた……』
女は二人を交互に見つめた後、連れ立った青年に被りを振る。
『女、それは呪か?』
『貴方の立場からすればそうでしょう。私はそれを予言と呼んでおりますけれど……』