ルラフェン編 その二 月夜の晩に-2
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メダルと王様
メダルの王様はメダルが大好き。
神話の時代からずっとメダルを集めていて、持ってきた人には褒美を与えるんだって。
でもね、もし王様のメダルに粗相をすると大変なんだよ?
昔ね、僕の知り合いのお姉さんの友達の弟のお母さんの従姉妹の娘さんがメダル王のところで侍女をしていたんだって。
メダルの勘定と金庫にしまうんだけど、あんなパジャマのボタンみたいなものを大層に扱うなんてばかばかしいよね。
ある日、旅の若者がメダルを五枚持ってきたんだ。六枚だと当時は奇跡の剣と交換できたのさ。若者は剣が欲しくて欲しくてたまらなかった。いったいどこの殺人鬼だろうね?
だけど王様、一枚足りないからと突っぱねた。
メダル王のお家って結構大変なところにあってさ、四方を海に囲まれて、タコの怪物ダゴンや、イカじゃ釣れない地獄のザリガニとか魔物がわんさかいるんだ。行くのも帰るのも大変なものさ。
侍女の子はすごく気の毒に思ったらしく、どうせ一枚と高をくくって褒美と交換しちゃったんだって……。
そしたらその夜王様がカンカンになって怒ってさ。
小さなメダルが一枚足りないって喚いて、家来一人ひとりに聞いて回ったのさ。
隠し通せることもなく、侍女の子が犯人ってわかってね、王様、彼女にメダルを数えさせたのさ。
一枚、二枚、三枚、四枚……。
何回数えても一枚足りない。
侍女の子は泣いて謝ったけど、王様の怒りは収まらない。
泣いてる侍女の子を抱え上げると、井戸に放り投げて、誰が作ったか大きなメダルでフタをしたんだって……。
それから毎日、夜になると……。
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子供だましの怪談だと笑いながら、リョカは本を閉じようとする。すると……。
「一枚、二枚、三枚……、一枚たりんわ〜」
何かを数える不審な声に、今まさに読んだ内容が被り、ぞくっと背筋が震える。
「……シドレー?」
「ん? 何? 今忙しいんだけど、後にしてくれる?」
天井では人騒がせな翼竜が銭勘定をしていた様子。
「もう……」
これではサントフィリップ号の赤毛の女の子を笑えないと思いながら、リョカは別の本を手にする。
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みんな消えた
お忍びで世界を見て回っていたお姫様。
教育係のじいやを連れて、今日もどこかで大活躍。
女の子を食べちゃう悪い魔物をぶっ飛ばし、誘拐犯をふんじばる。
エルフの秘密のお薬拾って、東国の力試しで五人抜き!
けれど、ある日お家に戻ったら、そこには誰も居りません……。
『誰かいないの?』
けれど、お返事ありません……。
『これは奇怪な……』
じいやにお返事ありません……。
『ミー居ないの?』
名前を呼んでも返事はなし……。
みーんなどこかへ消えました。
王様どこかへ消えました。
姫様のこして、消えました……。
じいやを残して消えました……。