ラプンツェルブルー 第11話-1
ラプンツェルブルー 第11話 亜麻音
あの日を最後に、ラプンツェルに会うことはなかった。
一方、早川とはケヤキの森で待ち合わせる事がなくなってしまえば、会うきっかけもなく。
二人の事が気にならなかった。
と言えば……嘘になる。
夢の人は――僕が夢を見ないのだから――どうしようもないとして。
じゃあもう一方は……と言うと、僕ができる事などひとつも思い当たらず。
彼女の内情に散々立ち入った僕がこれ以上関わるってどうなんだろう。
彼女にだって気を紛らわせる術も人脈もあるだろうし――彼女の性格からは、結び付け難いのだが――、行き詰まれば、万が一でも連絡の一つもあるだろう。
……などと並べた言い訳は表向き。
きっかけを無理に作るには、僕のつまらないプライドが二の足を踏んだからで。
常に偶然の連続のようなあやふやな繋がりで成り立っているだけの、友達とも知り合いともつかない関係の僕ら。
おまけに、勢いで告白してしまった僕の片思い状態である事も、次のアクションを邪魔している。
情けないことに
抜け落ちたような奇妙な寂しさともどかしさをどうするともなく時間だけは確かに過ぎ。
気付けばグレイトーンだった季節は空や周囲を霞がかったパステル色に塗り替えていたのだった。
「ゆったかく〜ん」
「……キモい」
「アンニュイに浸ってる寛に言われたくないんだけど」
誰がアンニュイだ。と、窓のむこうのピークを過ぎた桜並木から、僕の斜め前の席を陣取る相澤へと視線を移す。
「なんだよ」
「演劇部の彼女から預かってきたんだよね。渡してくれって」
差し出されたのは一冊の本。
「思い出すよなぁ。いつかの合コン。始まって早々にお前がお持ち帰りしてさぁ」
「そのネタ。もう古いから」
そう。あの合コンの一件は「僕が彼女をお持ち帰りした」として、仲間うちで面白おかしくひやかしのネタにされた。
とは言ってもひやかされる側――ひとごとのようだが実は僕である――が、スルーを決め込んでいたのでそう長くは続かなかったのだが。
「俺に?なんで?」
「津田に了承を得たいとか言ってたけど」
了承って。
なぜ僕の許しが必要なのか。
さっぱり解らないままとりあえず差し出されたそれを受け取る。
淡い茶色の背表紙で留められたアイボリーの表紙には、
『夏公演候補 ひと幕目のラプンツェル』
とある。
「じゃあ、渡したから。返事しといてくれよな」
「おい。待てって」
ヒラヒラと手を振る後ろ姿を呼び止めようと席を立ったはずみに、受け取ったばかりの本が机から滑り落ちた。
溜息まじり拾い上げると微かな違和感。
それに導かれるようにして開かれたページには勿忘草色の小さな便箋が挿されていた。