ラプンツェルブルー 第11話-2
春の空と同じ色のそれをすぐに開いてしまいそうな衝動を堪えて、本から視線を教室に戻してみる。
相澤の姿はすでになく、放課後の教室にはクラスメイトも疎らなのを確かめて。
再び視線を挿しこまれた紙片に。
差出人が誰かは、相澤がこの本を持ってきた時から判っていた。
急に回転数を上げた心拍が雄弁にそれを告げている。
二つ折の紙片を広げると
『ごめんなさいね』
と、それは藍色の文字で始まっていた。
『これをお芝居に使うつもりはなかったのだけど、いろいろあってこの脚本になってしまいました。
津田くんが不快に思うなら、この脚本は別のものに差し替えます。
既に差し替えの脚本も出来上がっているから、その心配はしないでくださいね。』
綺麗でクセのない、だがどこか華奢な印象の文字は、彼女『早川千紗』の名前で括られていた。
まだこの本――演劇の脚本らしい――を一文も読んでない僕には何の事かさっぱり解らない。
しかし
差し替えって。
心配しないでって。
やはりどこまでもクールに僕を看破している。
だけど、早川。
致命的なミスがひとつあるぞ。
しかし。
たった一葉の紙片の数文で、こうも意識を乱されるとは……。
自室の机の上に置かれた脚本とそれの存在は、あの後の僕を注意散漫にする威力十分で。
知らず深く長い溜め息。
ずいぶん情けないがこれをきっかけにするのもいいだろう。
今度は大きく深呼吸。
それでも情けない気分は少しも軽くはならなかったが、手元の携帯電話を取り上げるだけの覚悟にはなったようだ。