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白き人
【ファンタジー その他小説】

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白き人-1

中村 由宇。 成績優秀、人当たりのよい好人物。それが、いけなかった。
「大きくなったら弁護士になる」という目標を小学校2年生のときから掲げ続けた由宇。
「どんな子になるのか」と、親や親戚から期待を受けて育った由宇。 由宇は、いじめの被害者になった。
いじめというのは、所詮自分より秀でたものを憎むものだ。そう思って由宇は耐えていた。
だが、教室から机と椅子が同時になくなり、ロッカーと靴箱の中に物が入らないくらいゴミが詰め込まれていた日に、由宇は完全に切れた。許せない。由宇は黒魔術におぼれた。
そして知った。いじめなどに会って死んだものは、人を呪う事が出来ることを。非科学的だが、魅惑的だった。自分をいじめたクラスメイトを呪えると思うと、由宇は死すら恐ろしくはなかった。

そして、寒い雪の日。由宇は、屋上に上った。20m下には、雪かきがされたコンクリートの地面。
あそこにたたきつけられれば、それで人を呪う力が手に入る。誰もいない屋上で、由宇はフェンスに手をかけた。冷たく冷えたフェンスに指を食い込ませ、強引に登っていく。何度も足を滑らせ、ずり落ち、手をすりむき、それでも由宇は登っていく。あいつらを、呪い殺すために。
徐々に、あたりが暗くなっていくような気がした。それでもかまわず由宇は登り続け、とうとうフェンスのてっぺんまで登り詰めた。フェンスの上に立ち上がり、地面を見つめる。そして一気に、飛び降りた・・・・。
はずだった。由宇は、急にあたりが真っ暗になるのを感じた。そして、暗闇の中、地面にぶつかるのを。

・・・・・・・真っ暗だ。暗く乾いた、黒よりまだ黒い空間。もしかしてここが、死後の世界だろうか。すごく暗い。もっと明るいところじゃないかと思っていた。美しい花畑があるところだと。ここは、あまりにも暗すぎる。

「それは仕方ないよねぇ。地獄に明るさを求めるのは、間違いだと思うよ?」

いきなりどこかから声が響き渡った。そして声とともに、遠くに白い光がぽつんと灯る。
条件反射で、その光に向かって走った。40mくらい走ると、光の中に人がいるのが見えた。
その人の前に、そっと立つ。白い、人だ。白い上着、白いズボン。でもどこにも縫い目がない。
異常なほどに白い、抜けるような肌。男か女か判断のつかない、中性的なきれいな顔。
白い爪、白い瞳、白い髪。そして腰まである髪を束ねる白い柔らかな糸。何もかもが白い人。
その白い人が、ぽっかりと黒い空間に浮いている。まぶしい、白い光を放ちながら。

「・・・・天使?天使なの?天使が、アタシを助けに来てくれたの・・・・?」
涙があふれた。
やっと、救ってくれる人が来てくれたんだ。そう思ったとき、とたんにその人が言った。
「・・・・・馬鹿かい?キミは。」
由宇は、目を見開いた。天使も、馬鹿なんていうのだろうか。
「白かったら天使で、黒かったら悪魔かい?ふざけた認識だね。赤い服着た天使もいるってのに・・・・。」
それでは、この人は天使じゃないのだろうか。この人は自分を救ってくれないのだろうか。
「さて、ここに来たってことは、自殺者か。いったいなんだって、自殺なんかしたの?」
由宇は我に返った。そうだ。悪魔だったとしても、呪いの力をくれるはずだ。
「お願い!アタシに、アタシをいじめた奴らを、呪い殺す力をください!!」

そういった瞬間、その人の顔に、侮蔑と嫌悪の表情が浮かんだ。
「・・・・・呪う?」
「そうだよ、だってアタシは被害者だもん。あいつらを呪う権限、あるでしょ!?」
すっと、その人の声質が変わった。快いハスキーヴォイスが、鋭く、地の底から這うように低くなる。
「これはこれは。久しぶりだね?キミのような馬鹿者は。」
いきなり、その人が指を鳴らした。
ぬっと、闇から赤い手が2本伸びた。声を上げる間もなく、腕をつかまれる。気味悪くぬれた手だ。
「つまり、キミは久々の僕の食事だね。第1級特別重罪人なんて、何年ぶりだろうね?」
・・・・・・重罪人!?アタシが、罪人なの? 由宇はあわてて叫んだ。
「ちょっと、まって!!アタシはいじめの被害者なのに、どうしてアタシが罪人なの!?」
「死んだからだよ?法を破って。・・・・・・それとも現代っ子は、『霊界法』なんて知らないのかな?」


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