卒業-4
「喜んで。私が幸せにしてあげる。」
「ふっ、バカ言え。」
爪先立ちになって、唇を短く重ねる。先生は机に座っていても背が高い。
ちゅっ、
「おい、誰かきたら…」
「見られたっていいもん。」
ちゅっ、
「…江口、ここの席覚えてるか?」
忘れるはずがない。ここは、私と先生が始まった場所だ。
ちゅっ。
「先生…原点に帰ってみちゃう?」
「…悪くないな。」
机から降りた先生が、今度は私を抱えて机に座らせる。
さっきとは違って、先生と私の目線は同じ高さだ。
頬に手を添えながら、優しく舌を絡めてくる。いつもの、ブラックコーヒーの香りがした。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅ…
先生の唇がだんだんと下に下がっていく。
「あっ、せんせ…好き。」
ちゅっ、ちゅ、
「せんせ?私のこと、好き…?」
胸を愛撫していた先生が、正面からじっと顔を見つめてくる。
ちゅっ。
先生は返事をする代わりに、というか、私をなだめるように、小さくキスをした。
私はいつなったら、この少し照れ屋な口から、好きという言葉を聞くことができるだろうか。
「んっ、はぁっ…あぁ。」
先生の頭をくしゃくしゃっと胸に抱きながら、私は理科室の窓から遠くを眺める。
校庭には、ただ桜の花が咲き乱れているだけだった。