卒業-3
「話したいことはたくさんあるが、僕は口下手なもんで…なんていうか…」
先生が口ごもり、生徒たちがざわつく。
「最後に…たくさんの思い出をありがとう。」
目からは、拭いても拭いても涙が溢れてくる。最後なんて言わないでよ、先生…
「…あぁ、ちなみに、研究部というのは、城華大学というところの大学院でして、つまり…これからもよろしくお願いします。」
さらにざわつく生徒たちだが、そんなことは関係ない。
「江口…良かったな。」
橋本クンが側で微笑む。
「うん…!」
私は先生と離れずに済んだようだ。城華大学というのは、私が進学する大学。偶然にも先生はそこに籍を移すとのことだった。
――――――
リハーサルが済んで学生たちは、教室でアルバムに寄せ書きをしたり、写真を撮ったり、思い思いの時間を過ごしている。
私も友達と一通りのことを済ませた後、急いで先生のところに向かう。足がもつれるのも忘れ、とにかく走った。先生に会いたい―
ガラッ 「はぁ、はぁ…先生…」
理科室のドアを開けると、薄暗い教室の中で先生が一人、机の上に座っていた。いつもは教官室に籠もりっぱなしの先生が…珍しい。
「おぉ江口。…学生たちは、ここから俺のこと、こうやって眺めてたのかぁ。」
そんなことを言いながら、ぼぉーっと黒板を眺めている。
慣れ親しんだ教室と別れるのが寂しいという感情は、なにも生徒独自のものではなかったらしい。
私は先生の膝の間に割り入るようにして立つ。
「ひどいっ!どうして言ってくれなかったの?」
「ん〜?あぁ、お前が勝手に悲劇のヒロイン演じてるから、邪魔しちゃ悪いかなぁと思ってな。」
「えぇっ、気付いてたの?」
「当たり前だ。最後に…とか、思い出に…ってゆうのがここ最近のお前の口癖だったからな。」
「…いじわる。寂しかったんだから。」
先生が「ごめん」と呟きながら、長い髪の毛を指で梳く。
髪を撫でるときの、少し細くなる目が私は大好きだ。
「…なぁ、あっちで一緒に暮らすか?」
私は先生の眼鏡を外す。そうすると、先生のスイッチが切れるような気がして。
そしてそのまま首に手を回し、先生の目を見つめて、ニッと笑う。